この記事では水泳が上達するために柔軟性を高くしておいた方が良い肩甲骨、胸椎、胸郭、股関節と柔軟性を効率良く獲得する方法について説明します。これらの部位の柔軟性を高めれば泳ぎは格段に良くなりますが、効果的に柔軟性を高める方法は意外と知らない人が多いです。
「綺麗に泳げるようになりたい」、「楽に泳げるようになりたい」、「もっと速く泳げるようになりたい」と水泳をする人であれば初心者、上級者関わらず誰しもが思うことです。そのためのコンディショニングの1つとして風呂上りや寝る前、泳ぐ前、泳いだ後などに多くの人がストレッチを取り入れています。
しかし、果たしてそのうちの何人の人が本当に柔軟性を改善する効果を実感できているでしょうか?
今ストレッチを取り組んでいる人も本当にちゃんと成果が出ていますか?
これからストレッチを取り入れる人も、せっかくなら効果的な方法知りたくないですか??
いませんでしたか?部活で毎日ストレッチをしているのに全然体が柔らかくならない人…。
特別な事情(病気とか身体的な障害や故障)が無い限り、効果が出ないのは方法に何らかの問題があるからです。
しっかりとした手順を踏んで体を手入れしてあげれば柔軟性はしっかり向上しますし泳ぎも良くなっていくと思います。
今回は柔軟性を獲得するための方法を紹介したいと思います。もちろん専門家に診てもらうことが一番早いですが、そんなこと誰でもできるわけじゃないので、家でもできるセルフケアの方法をお伝えします。
目次
高い柔軟性はなぜ泳ぎを上達させるのか
柔軟性の意味について改めて確認しておきましょう。
柔軟性とは「ある関節の周囲の可動域(ROM: Range Of Motion)」を示します。
簡単に言うと関節をどれだけ大きな範囲で動かせるかということです。
では、このROMがストレッチ等で改善することで泳ぎがどうして良くなるのでしょうか。
*細かいことは良いからさっさと方法を教えろという人は遠慮なくすっ飛ばしていって下さい!
僕なりに特に重要と考える4つの部位をピックアップしてみました。
パワーがどうとか、心肺機能がどうとかの前に今回挙げる部位の柔軟性を改善し、フォーム改善に取り組むだけでも泳ぎは遥かに良くなると思います。
必然、理想のフォームのためには相応の柔軟性獲得が欠かせないものになってきます。
①正しいストリームラインはできますか?遠くの水を捉えることができてますか?肩甲骨の柔軟性
なぜ大事かわかっていなければ、いくら柔らかくなっても実際の泳ぎで使うことができません。
肩甲骨は腕と体幹をつなぐ骨ですので
1.腕の動きの起点(下半身で言う骨盤みたいなイメージ)
2.胸郭(ざっくり言うと肋骨で囲われてるとこ)から独立して腕を動かす
役割があります。
横から腕を挙げる時、肩の高さまでは肩関節の動きだけで上がりますが、それ以上挙げる場合には肩甲骨の動きも加わります。
ストリームラインを組む時も肩甲骨の動きが大きくかかわっています。
肩甲骨の柔軟性が低いと最後の絞り込みができず、ふにゃっとした抵抗の多いストリームラインになります。
さらに、肩甲骨の可動域が大きいことで腕をより遠くまで伸ばすことができます。これはつまり、泳いでいる時により遠くの水を捕まえることができるということで、ストローク長(1ストロークでかく距離)が伸びます。
わずか数cmと思うかもしれませんが100m、200mと距離が伸びていくにつれその差はえらいこっちゃです。
また、肩甲骨から腕を動かせていればストロークに対して体が振られることも少し改善されると考えられます。
肩甲骨は胸郭から腕を独立させて動くという働きから考えればそうなります。
良く動くとこんなことも。
②”背骨”を上手く使えていますか?胸椎の柔軟性
一般的に言う背骨とは首から腰まで約30個の椎骨が連なった脊椎(脊柱)のことを言います。
そして、部位によって頚椎(7個)、胸椎(12個)、腰椎(5個)、仙椎(5個)、尾椎(3~6個)と呼ばれています。
中でも重要なのが胸椎と腰椎です。
腰椎はその名の通り、腰のあたりにある5個の椎骨からなります。
腰椎はグラグラ動きすぎると姿勢がぶれてしますので、骨盤と共にある程度まっすぐで安定した状態を保ちたいところです。
無理な動作がかかると腰痛にもなりかねません。
一方、胸椎は動きの大きさ自体は小さくて地味ですが柔軟性をしっかり獲得したい部位です。
胸椎の柔軟性は泳ぎの姿勢とストローク動作に重要です。
特に胸を上に持ちあげるような伸展という動作が重要です。
重要なくせに可動域を獲得しにくいです。
特に猫背気味の人は普段から胸椎が屈曲気味で、伸展の柔軟性が低い場合が多く、泳ぐときにまっすぐな姿勢をすら作れない場合があります。
ストローク動作としては、分かりやすい例を挙げるとバタフライや平泳ぎのエントリーからキャッチで伸展、リカバリーで屈曲が起こります。
また、安定した腰椎・骨盤と可動性の高い胸椎は水泳に関わらず多くのスポーツで求められる要素になるので柔軟性を高めておきたいところです。
特に水泳では伸展と屈曲だけでなく、回旋動作(背泳ぎとクロール)もあるので安定した土台(骨盤と腰椎)の上で良く動く胸椎を手に入れたいですね。
③大きなキャッチと力強いストロークができていますか?胸郭の柔軟性
胸椎と似た感じになるのですが、胸郭の柔軟性も重要です。胸郭とは胸椎・胸骨・肋骨からなる胸を取り巻く骨格です。
胸郭の柔軟性がなぜ大切かと言うと、胸郭を大きく広げることができるとキャッチ動作をする時に遠くの高い位置で水を捉えることができるからです。
トップスイマーの水中映像を見るとものすごく体の前で肘が立っている人がいると思います。
肩や肩甲骨だけ柔らかいだけではあのキャッチは難しく、バタフライや平泳ぎでは胸を落とし込むようにして胸郭を広げる必要があります。
背泳ぎやクロールでも体側を伸ばすように左右の肋骨を開いていくことで腕を遠くにのばすことができます。
バタフライでは特に顕著です。
胸郭の柔軟性を高めるメリットはもう1つあります。
クロールや背泳ぎなどの回旋動作の起点が肩からではなく、胸郭からになることで効率良く力を発揮することができます。
よく体を使って水をかきなさいと言われます、が具体的には胸郭から力を出すということです。そのためにはしっかりした可動性が必要です。
④力強いキック、姿勢のコントロールはできていますか?股関節の柔軟性
股関節の柔軟性は水泳ではとても重要になります。平泳ぎはどう見ても明らかに股関節が動きまくっているので、誰が見ても重要さに気付くはずです。
しかし、股関節の柔軟性は平泳ぎだけでなくクロール、バタフライ、背泳ぎでも重要です。
3つの泳法では必須になるドルフィンキック(バサロ)では股関節の伸展と屈曲を繰り返します。
ドルフィンキックで水を蹴りこむダウンキックでは屈曲、足を引くアップキックでは伸展が起こります。
屈曲(太ももを前に上げる動作)はほとんどの人がしっかり動くのですが、脚を後ろにもっていく伸展動作の可動域がしっかり出せていない人がよくいます。
伸展の可動域が狭いと、ダウンキックに偏ったドルフィンキックになります。
理想はダウンキックとアップキックが同じ幅ですので、良いドルフィンキックを打つためにはしっかりとした股関節の伸展可動域が必要です。
他にも、股関節の伸展が泳ぎで役立つ場面があります。
それは、クロールをでバタ足をする時に下半身が沈まないように持ち上げる場面です。
クロールを泳ぐときに股関節を伸展させてバタ足を打つことで下半身が高い位置に浮かび、フラットな姿勢をキープしやすくなります。
しかし、股関節を伸展させようとしても股関節の柔軟性が低いと腰が反るだけになってしまい、結局お腹が沈んでしまいます。
あくまでも股関節を伸展させるのであって、腰をそらすわけではありません。
平泳ぎのキックはもちろん、他の泳ぎでも股関節伸展の可動域をしっかり獲得することで泳ぎの質は変わってきます。是非、高い可動性の股関節を手に入れて下さい。
結局、どの関節にでも言えることですが、高い柔軟性を獲得すれば動きの幅が広がり、今よりワンランク上のフォームで泳ぐことができる身体を手に入れることができるということです。
大切なのは「身体を手に入れられる」だけであって理想のフォーム習得には泳ぎの練習が必要です。
でも、柔軟性・可動性が低ければ、その理想のフォームを練習できる段階にすらいないということです。
柔らかければ柔らかいほど良いというわけではありませんが、水泳では自分の理想とするフォームを実現させるための柔軟性が必要になってきます。
そしてその柔軟性がどれくらい必要かは理想の泳ぎによって変わってきますが、水泳をしていない一般の人から見たら、「お!そこそこ柔らかいじゃん」ってくらいにはなっておくべきではないかと思います。
ちなみに、足首の柔軟性については前にまとめました!
【水泳をする方必見】泳ぎを進化させるために柔軟性を高める方法
柔軟性を高めるには一般的によく行われている、体をじわじわ伸ばすストレッチだけでは効率が悪く、ストレッチ前に「あること」をして「ある方法のストレッチ」を取り入れる必要があります。
その方法は柔軟性を高める以外に、泳ぐ前後のコンディショニングとしてもすごく効果のある方法です。
柔軟性を高めるためには「ほぐす」・「動かす」・「伸ばす」!!!
柔軟性を高めるには、いきなり筋肉を伸ばせば良いというわけではありません。
ストレッチより先にすべきことは「自分が可動域を大きくしたい関節周辺の筋肉・軟部組織をほぐすこと」です。
関節可動域が小さく、柔軟性に乏しい状態と言うのは、筋肉とその周辺の軟部組織が凝り固まっているというのも原因です。
また、ほぐすことで筋肉の緊張も解け、より動きやすくリラックスした状態にすることができます。まずはほぐしましょう。ほぐして動ける状態を作ってからストレッチをします。
ほぐすためには2つの段階があります。1つは道具を使って物理的にほぐすこと。
次に、筋肉を動かすことです。
そして最後に一般的なストレッチをして筋肉を伸ばします。
まずは物理的にほぐすための道具の話からします。
スポーツや運動をする人が筋肉をほぐして、セルフケアをするために欠かせない道具が2つあります。それは
①テニスボール、ゴルフボールなどのやや固めのボール(ラクロスボールも効果ありと知人により証明)
②フォームローラー(ストレッチローラー)
2つとも使い方としてはターゲットにする筋肉に押し当ててグリグリグリグリほぐしていくものです。
なぜ2つとも必要かと言うと、テニスボールは局所的に攻めるため、フォームローラーは全体的に丸ごと攻めるためです。
フォームローラーは筋膜リリースのセルフケア用品としてもアスリートや運動をする人に愛用されています。
筋肉やその周辺組織が凝り固まっている人だとフォームローラーは最初痛いかもしれませんが、数日から1週間程度継続していれば気持ちよくなってきます。
この2種類はセルフケアの必需品と言っても過言ではありません。
柔軟性を高めるだけでなく、マッサージをして疲労をためないためのコンディショニングとしても欠かせないものではないでしょうか。
テニスボールは100円ショップでも売っていますのでぜひぜひ!たまに空気が抜けてフニャフニャのものがあるので、しっかり固いものを買って下さい。
フォームローラーは値段の幅が大きいですが、だいたい4000~5000円前後です。
安いものであれば2000~3000円で買えますが、毎日のコンディショニングですので高くて質の良いものを買う人も多いです。
最近では高性能なものが出ており、体のほぐれ具合も疲労の抜け具合も段違い。特にドクターエアから発売されている振動付きのフォームローラーは効果大との評判です。
話がちょっと飛びましたが、とにかくストレッチの前にまず凝り固まった筋肉と周辺組織をほぐす必要があります。
ほぐすためにはダイナミックなストレッチをする
ターゲットにする関節周囲の筋肉を、フォームローラーやテニスボールでほぐしたら、次は筋肉を動かしていきます。
ここではじわじわ伸ばすのではなく、「回す」、「振る」など大きな動作を伴うダイナミックストレッチを行います。
ダイナミックストレッチを行うことのメリットは3つです。
①筋温を高めることができる
②動かすことで筋肉がほぐれていく
③実際に動きの中で自分の体がどれだけの可動域があるか確認できる
中でも大切なのは筋温を高めることができるということです。
ゆっくりじわじわ伸ばすストレッチをスタティスティックスストレッチと言いますが、筋温を上げる効果が低めです。
筋温が低い状態では筋肉をのばして柔軟性を獲得するにも効率が悪いです。
しっかり筋温を上げて、体をほぐしてからのばすことが最も効果的です。
ダイナミックストレッチはウォーミングアップ的な要素も強いので、寝る前に行う方はあまり強度の高くないものをおすすめします。
最後にゆっくり伸ばすストレッチを無理のない範囲で行う
ここまで行えば十分に筋肉がほぐれ、筋温も高い状態ですので柔軟性を上げるにはベストなコンディションです。
最後に一般的なじわじわ伸ばすスタティスティックストレッチを行います。
ですが、注意点があります。それは無理のない範囲で伸ばすことです。
無理のない範囲と言うのは
・強い痛みのない範囲
・伸ばしていて気持ちよいと感じるところ
・ゆっくりちょっとずつ動かす
この3つに注意してください。筋肉には「それ以上伸ばしたら危険だから縮もう」というセンサーである筋紡錘とゴルジ腱器官というものがあります。
筋紡錘は筋の長さの急速な変化に反応します。ゴルジ腱器官は過剰な筋活動に対して反応します。
つまり、一気にグイっと筋肉を伸ばして強い痛みを我慢してキープすると、筋肉はそれ以上伸びないように収縮しようとしてしまいます。
いずれも筋肉や関節、腱を保護するための大切な機能ですが、柔軟性を獲得するときにはちょっと邪魔です。
なので、この2つの防御システムが働かないようにゆっくり伸ばしてください。
特に痛みを伴うような範囲まで一気に動かさないように。
伸びていて気持ちいいと感じるところまでゆっくり伸ばしてみてください。せいぜい「痛気持ちいい」くらいまでで十分です。
ここまでの手順をまとめると
柔軟性を獲得する本当の方法は
①フォームローラーやテニスボールなどで筋膜、筋肉、その他周辺組織を物理的にほぐす
②ダイナミックストレッチで筋温を上げながら筋肉をほぐす
③ゆっくりストレッチで伸ばす
次章からはこういったコンディショニング方法が柔軟性を高める以外にもどんなメリットがあるのか紹介していきます。
ストレッチは柔軟性を高める以外にも運動前の動作確認に
ダイナミックストレッチ、スタティスティックスストレッチに関わらず、運動前のストレッチには重要な役割が2つあります。
まず1つ目はその日の身体の動作確認という役割です。
泳ぐ前に5分でも10分でも良いのでストレッチ、特にダイナミックなストレッチを取り入れてみてください。
体を動かしていく中でその日の体のコンディションを知ることができます。
・張りがある部位
・動作に詰まった感覚がある部位
・とてもスムーズに動く部位
・スムーズに動かない部位
動かしてみると、こういった体の部位が必ずどこかに出てくると思います。
昨日はスムーズに動いたのに今日は動かないのであれば、疲労や筋肉の緊張などでコンディションが昨日と違うと評価できます。
毎回スムーズに動かないなら、その部位の機能が低く、今後改善していく必要があると判断できます。
運動前のストレッチの2つ目の役割は体をできるだけ毎回同じコンディションにもっていくということです。
動作確認をして動きが悪い場所をしっかり重点的に行い、普段通りの感覚に極力近づけます。
泳ぐたびに毎回体のコンディションが極端に違うと、毎回泳ぐフォームも大きく変わってしまいます。
前はできたのに今日はできない、今日はなんだか泳ぎの調子が悪い、、、と言うのをできるだけ無くしていきます。
毎回の練習で体の状態を極力そろえるようにします。
そうしないと、せっかく上手に泳げたと思っても、「たまたまコンディションが良かったから上手くできた」になってしまいます。
体のコンディションを毎回良好に保ちましょう。疲労やコンディションが原因でせっかく身に付けた技術を再現できないのはもったいないです。
調子が良すぎる日、悪すぎる日を無くして、毎回普通の調子の日で泳げるようにしましょう。
調子が良すぎる日は滅多にやってきません。その日にできた技術は次にできるかわかりません。
普通の調子をキープし、「普通」のベースを徐々に上げていく意識が一番良いと思います。
泳ぐ前に体をほぐせば泳ぎが変わる
泳ぐ前に体をほぐすことで泳ぎは確実に変わります。
筋肉の無駄な緊張や凝り固まった周辺組織をほぐすことで動きの範囲とスムーズさの改善に役立ちます。
プールサイドでフォームローラーやテニスボールをゴロゴロするのはなかなか厳しいと思います。
それでもプールに行く前に家でフォームローラーやテニスボールを軽く転がして、プールサイドでダイナミックストレッチをするだけでも全然違います。
外出先からプールに行く場合でもテニスボールで空き時間に筋肉をグリグリほぐしてからプールに向かえば効果があります。
フォームローラーなどで体をほぐすことは運動後の体のケアにも最適
ここまで紹介してきた、物理的にほぐす、伸ばすというのは運動後の体のケアにもとても適しています。
フォームローラーやテニスボールで物理的にほぐすのは言わばセルフマッサージですので疲労回復にもとても効果的です。
じわじわ伸ばすスタティスティックストレッチも運動後に行うことで翌日の筋疲労が軽減されるということも分かっています。
疲労が溜まった状態と言うのは身体のコンディションを悪くし、先に説明した技術の再現性を低くします。
すると上手になるために時間がかかってしまいます。
疲労の蓄積が技術の習得に大きな妨げになることは意外と知られていません。
トップアスリートでも、子供でも、趣味レベルの人でも誰でもそうです。
疲労は体のコンディションを変えます。
筋肉や関節の疲労に加えて、体を操作する神経系のはたらきも悪くします。
これらが疲労すると思うように体を操ることができません。
もしかすると疲労をできるだけためないことは上達への一番の近道かもしれません。
ぜひ、疲労をためないように体のケアを練習と同じくらい大切にしてください。
ドクターエア3Dマッサージロール