【水泳上達の仕組み】良い泳ぎを何mできたか

水泳界隈では「泳いだ距離は裏切らない」といった言葉がありますが、既に古くなってきているかもしれません。

泳いだ距離は平気で裏切ってきます。

現実として、大会での順位が練習量と同じ順番になっているわけではないですよね。

もちろん、ある程度の練習量が無ければ上達することもベストタイムを出すことはできません。

 

質を重視するか量を重視するかの議論は長年にわたって指導者の中で絶えませんし、現在も決着はついていません(*1)

ですが、質か量のどちらを重視するかはっきりさせるよりも、もう一歩次の段階の議論をすべきではないでしょうか。

 

私たちが目指すべき姿は、次の3点だと思います。

・質練習と量練習、それぞれで得られる効果を見極め、バランスよく時間を割く

・量練習の内容を種目や特徴に応じて吟味する

・高い質で泳いだ量を増やすこと

量を泳ぐ練習が主流になった理由と今

水泳、特に競泳の世界では練習で泳いだ量を多くするほどに強くなるという考えが長い間主流でした。

というのも2000年代以前は圧倒的な量を泳いでいるトップ選手の方が競技成績が良かったため、こういった風潮になったそうです(*2)。

しかし、時代と共に泳ぎを分析する技術が発達し、トレーニング理論も発展し、実際にトップレベルにしては少ない練習量で成果を上げる選手も出てきている中、いつまでもこの風潮でいる必要はありません。

 

僕のような個別指導のスイムコーチをされている方は多くはありませんが、全国各地に一定数いらっしゃいます。

レッスンを受講される選手には共通した傾向があります。

それは技術的に困りごとがあり、普段のチーム練習では量重視でフォームが改善できず、伸び悩んでいるという傾向です。

そこで行動を起こした選手や保護者が技術的な指導を受けに行くという形です。

つまり、選手側にも気づき始めている人はいるわけです、量だけでは限界があると。

量重視の練習の強みと弱点

量を重視した練習の強みはなんと言っても圧倒的な練習量にあります。

練習量が増えるとどうしても細部(フォームなど)への意識は希薄になりがちですが生理学的な適応(持久力が付く等)として得られる効果は大きいです。

心理的にも、「あれだけ泳いだから大丈夫」といった自信にもなります。

 

一方、量を重視した練習では弱点もあります。

それは、「体が強い選手、環境の整った選手でないと練習をこなし切れない」ということです。

泳ぐ量が増えるともちろんケガのリスクが高まっていきます。

使い過ぎによるオーバーユーズで水泳肩(インピンジメント)や、腰椎分離症になったり、筋肉への疲労が溜まって肉離れになったり。

水泳肩と腰椎分離症は以前このブログでも取り上げました。

水泳肩→https://yu3trn.com/swimmers-shoulder-prevention/

腰椎分離症→https://yu3trn.com/swimmer-lumbar-spondylolysis/

 

オーバーユーズは体の各所へのダメージです。

もっと大きく体を捉えると、練習のし過ぎで心身ともに限界に達してあらゆる機能が落ちるオーバートレーニング状態になります。

オーバートレーニングになるとパフォーマンスは著しく落ちますし、体に不調も現れ、気力さえも無くなってきます。

 

たくさんの量を泳ぐ練習や、陸でトレーニングをした直後は一時的に免疫レベルも低下します。

すると感染症のリスクが高まり、十分に気を付けていないと体調を崩して元も子もない状態になります。

 

量を重視した練習で得られる効果は大きなものです。

しかし、元々体が強い選手や体をケアする環境(量管理の上手いコーチ、トレーナー、医学的なスタッフ、経済力)が整った選手でなければその効果を最大限に得ることができません。

それ以外の選手で量を重視した練習ばかりしていると、ほとんどの場合がオーバートレーニング状態で泳いでいたり、途中でケガや体調不良で練習を100%こなせなくなります。

量を重視した練習で気を付けるべきこと

量を重視した練習で最も気を付けなければならないことは、スプリンター(50~100m)、ミドルスイマー(200~)、ロングスイマー(~1500m)で練習内容を分けるということです。

スプリンターであればスプリント力を高めるトレーニング、無酸素性持久力を高めるトレーニングに主を置いた量を増やすべきです。

ロングスイマーであれば有酸素性持久力のトレーニング、ラストスパートをかけるトレーニングに主を置いた量を増やすべきです。

ミドルスイマーはその中間に位置する練習。

だからと言ってスプリンターだから持久力練習をしないとか、ロングだからスプリント練習をしないというわけではありません。

 

これはたとえ小学生の時であってもです。

子どもの時の考え方は2つあります。

バランスよくすべての体力要素を高めるのは大切なので、時期によって分ける、満遍なく行う。

もしくは、スプリンターとしてやっていきたいのであればその練習を多くする。

とはいえ技術が一番伸びる時期なので質に時間を割く方が得策かもしれませんが、、、笑

 

間違った方向性の練習量を増やさないよう注意が必要です。

されど、高強度のスプリントをするには全身に血流を回し、それに耐え得る体づくりが必要なので、量を泳いで基礎持久力を高める練習も必要になってきます。難しいですね。

短い距離で成果を上げているトップ選手であっても、もしかするとジュニア時期(特に思春期以降)は相当泳いでいた可能性があります。

質を重視した練習とは

ここまで、最初に挙げた3点のうち2つを量の観点から述べてきました。

・質重視の練習と量重視の練習、それぞれで得られる効果を見極め、バランスよく時間を割く

・量重視の練習の内容を種目や特徴に応じて吟味する

 

では質重視の練習で得られる効果とは一体何でしょうか。

質の練習には2種類あると思っています。

1つは泳ぎのフォームを改善、進化させるためにフォーム練習やドリル練習をすること。

もう1つはその技術をレースペースで再現する練習です。

レースで泳ぐスピード、ペース配分で自分の理想とする技術を体現できなければ試合で役に立ちません。

でもいきなりそれは難しいので、まずはゆっくりのスピードでも良いので技術面を向上させようというのが1つめです。

質か量かではなく、高い質でどれだけの量か

質を重視した練習では、量を重視した練習ほどに生理学的な適応(持久力の向上など)が起こらないと思われがちですが、そうでもありません。

レースペースで泳ぐということは、レースの時と同程度・同種類の刺激が身体に入るということです。

練習に耐える体を手に入れるために練習をしているわけではなく、試合でタイムを出すために練習をしているので、レースに極めて近い刺激を体に入れ、それに合わせた適応を促すというのは理に適っています。

 

こういったことを考えると、質か量かの二極的な議論ではなく、もう一歩踏み込んだ考え方が必要です。

それは「高い質でどれだけの量を泳いだか」を重視するということです。

例えば、、、

・レースペースで泳ぐ実践的な練習をどれだけ積めたか

・レースペースの中で技術的な再現性を追求して泳げた量はどれだけか

・「闇雲に泳いだだけ」の距離をどれだけ低い割合にできたか

・練習量が多い場合にも技術的なことを考えながらどれだけ泳げたか

 

量をただ泳ぐだけの練習でも生理学的な適応があってタイムは伸びます。

しかし一定の水準で頭打ちになります。

トップレベルの持久力を備えても、技術的に未熟ではトップレベルにはなれません。

もしそれでトップになれるならば、マラソンやトライアスロン、アイアンマンの世界チャンピオンがすべての持久競技で1番になれます。

でも、そうではない。

となるとそこにあるのは技術的な差です。

最後に

特に練習時間が限られている選手(マスターズ選手や水泳部だけの選手)は「高い質でどれだけの量を泳いだか」を重視すべきではないかと思います。

時間という絶対不変の条件が限られているわけですから。

 

私のスイムレッスンでは、60分のうちの大半を技術レッスンに費やし、最後に数本高い質での泳ぎを目指して泳いでもらっています。

その時に上手く泳げなくても、「技術的にもペース的にも高いレベルを体現しようとする」という経験を積んでもらうためです。

そうすることで普段のチーム練習で「高い質で泳いだ量」が増えることを狙っています。

 

<参考文献>

1.Nugent FJ et al, Quality versus Quantity Debate in Swimming: Perceptions and Training Practices of Expert Swimming Coaches. J Hum Kinet. 2017 Jun 22;57:147-158.

2.スイミングサイエンス G・ジョン・マレン 訳:黒輪篤嗣 河出書房新社 2018

 

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