誰しも泳ぎの調子が良い時、悪い時、絶好調や絶不調の時があると思いますが、この時どんなことが起こっているかご存知ですか? また、調子を整えるための考え方はご存知でしょうか?
そして何より、泳ぎが上達することやパフォーマンスが向上することを目的にされている場合、「調子」をどのようにとらえるべきか1つの考え方を今回は提供したいと思います。
本来、絶好調や絶不調が起こる確率は低い
皆さんも多かれ少なかれこんな経験があると思います。
「なんか昨日はめっちゃ調子良かったわ~」
からの
「今日はそうでもないな。普通や。」
はたまた
「なんやこれ、調子悪!!!!」
僕たち人間は調子が良かったり悪かったり忙しい生き物です。
今もたくさんの人がプールで泳ぎの調子に振り回されて一喜一憂していることでしょう。
しかし、なぜ調子が良いのか悪いのかと問われても、関係する要素や条件が多すぎて完全にコントロールすることは至難の業です。
コントロールすることは難しいですが、考え方を変えることは可能です。
実は調子の良い時(=パフォーマンスが高い)と調子が悪い時(=パフォーマンスが低い時)がどれくらいの頻度で起こるかというのはある程度決まっています。
様々な要素が組み合わさって起こる結果の多くはおおよそ正規分布のような形になると言われています。
泳ぎの調子(パフォーマンスの良し悪し)という結果も様々な要素に影響を受けるので、何日も記録していけばおおよそ正規分布のようになると考えられます。つまり平均が一番多い。
横軸が点数や数値です。
真ん中のμが平均です。右へ行くほど平均より高く、左へ行くほど平均より低い点数や数値となります。
縦軸がその点数や数値が起こり得る頻度です。
中央の平均が最も起こる回数が多く、左右に行くほど起こる回数は少なくなっていきます。
泳ぎの調子に当てはめて考えてみます。
泳ぎの調子を毎回記録したとします(明らかな故障や病気は除いて)。
横軸は調子の良し悪しです。つまりは右へ行くほど調子が良くパフォーマンスが高い。
縦軸がその調子が起こる頻度です。
µは平均的な調子の日(=普通)です。
µ+1σは普通よりちょっと良い調子の日、µ-1σは普通よりちょっと悪い調子の日です。
泳いだ日全体の68%は平均的な調子の日~ちょっとだけ調子が良かったり悪かったりする日になります。
つまり100日泳いだら68日は普通の調子かちょっとだけ調子が良かったり悪かったりします。
ただし、普通の日が起こる頻度が最も多く、ちょっとだけ調子が良い悪い日が来る可能性は普通の日より少ない。
µ+2σ(ちょっとだけ調子が良い~かなり調子が良いまでの範囲)に13.6%、µ-2σ(ちょっとだけ調子が悪い~かなり調子が悪いまでの範囲)に13.6%入ります。
100日泳いだら13日くらいはちょっとだけ調子が良い~かなり調子が良いことになります。
もしくは13日くらいはちょっとだけ調子が悪い~かなり調子が悪いことになります。
ここまでで泳いだ日全体の95%が含まれます。内訳は述べた通り。
µ+3σ(かなり調子が良い~絶好調の範囲)に2.1%、µ-2σ(かなり調子が悪い~絶不調までの範囲)に2.1%入ります。
µ+3σ以上(絶好調~神がかり的パフォーマンス)もしくはµ-3σ以下の調子(絶不調~地獄級)が起こるのは練習した日全体の0.1%です。
つまり、泳いだ日のうちかなり調子が良い(µ+2σ)以上の日はわずか2%そこそこしか来ない。
逆も然りで、かなり調子が悪い(µ-2σ)以下の日も2%そこそこ。
100日泳いだら2回あるかないかです。
さらにµ+3σ、µ-3σの絶好調を超えた好調や、絶不調の向こう側なんて日は100日泳いだら0.1回。滅多に起こりません。1000日泳いで1日です。
とんでもなく調子が良い日や悪い日って本当にたまにしかないと思います。
なんだかんだ普通からちょっと良い悪いくらいの日がほとんどではないでしょうか?
ここ数日調子が悪くても年間を通したりすると多くの日が普通の調子になりませんか?
こういった現象を平均への回帰と言ったりするそうです。
極端なことが起こっても次は平均的なことが起こる可能性が高い。
平均的なことが最も発生しやすいということ。
極端に調子の良い日や悪い日は本来滅多に起こらないものであって、その日のパフォーマンスや身体の動きと言うのはたまたま起こったに近く、その日の泳ぎを基準にしても再現性はとても低いものとなります。
絶好調な昨日にできた泳ぎが今日できないのも自然なことです。
何日も行う練習ならまだしも試合ならどうでしょうか。
水泳では年間100試合もありません。
絶好調の状態で試合に挑めることってそうそう無いんです。
ただし、一度でもできたわけですからその経験は生きてきます。
そして自分にはできる力があるということはお忘れなく。
つまり、練習や試合での調子を考える時に必要なのが普通の調子を基準に判断することではないでしょうか。
滅多に無い絶好調や絶不調の日に一喜一憂するのではなく、最も起こりやすい普通の調子の日にできたことを評価する。
普通の調子で出せる自分の実力やスキルを高めていくことが重要かなと思います。
最も多く起こり得る普通の調子の日でも出せるレベルを高めていくことで泳ぎの再現性と平均点が高くなっていくのではないでしょうか。
もちろん、自分ができる範囲での絶好調になるための努力や、絶不調にならないための努力をする必要はありますが、そのような珍しい日を今のレベルの判断基準にしてしまうのもなぁって。
大事な試合やテストでその日が来たらラッキーです。
もちろんそれは実力であり、本人の力ですが、そんな調子の日が毎回来るわけではないので普通の日を基準にレベルアップしていきませんかって思います。
逆も然りで、調子が悪すぎる日にできなかったことを気にしすぎることは無いと思います。
できなかった原因や対策を考えることは重要ですが、落ち込みすぎることは無くて良いと思います。
調子の波を整える考え方
前章で示した確率の話はあくまでもスタンダードな場合であり、それが当てはまらない人もいます。
調子の波が激しく、好調と不調の日が多くて普通の調子の日が少ない人もいます。
もしくは慢性的に不調であったり。
調子が良い時と悪い時の波が激しい、普通の日があまりないというのは取り組みに対してどこかに問題があるかもしれません。
たまたまできた日(絶好調)とたまたまできない日(絶不調)の二極化された調子だと、毎回の練習や試合は博打に近いです。
いかに普通の調子の日を確保できるか(68%)、もしくはここぞという時に好調を引き出すかがカギではないでしょうか。
そういった意味で、調子を整えるというのは
・いかに普通の調子でいられるか
・毎回同じ条件を作れるか
・普通の調子の時のパフォーマンスをどれだけ上げれるか
・好調を迎える準備ができているか
だと思います。
そのために行うことは、毎回同じ条件を整えることです。
・エネルギー不足や睡眠不足、体調不良や故障といった明らかにパフォーマンスが悪くなる状態で泳ぐのを回避する
・疲労を残さないためにクールダウン、ケアをして体をリセットする
・できるだけ同じ体の状態で泳げるように準備体操やアップをする(体との対話。硬い日はいつもの状態になるように良くほぐす、入念にするなど)
・練習構成や流れをある程度決めておく
・心の準備(いつも同じメンタリティーで泳げるようにする。短時間の瞑想や自分なりのルーティン)
「絶好調」が起こる理由と起こす可能性を高めるアプローチ
絶好調=パフォーマンスが高い状態と言うのは体の面だけでなく、メンタル面も大きく関わっていると言われています。
体に関しては、先にも述べた通り明らかに不調を招くような状態を回避することが第一で、そのうえで準備体操やアップをしてしっかり動ける状態を作ることが重要です。
難しいのはメンタル面です。
パフォーマンスとメンタル面の関係は逆U字理論が有名です。
また似たようなグラフが出てきましたが少し違います。
縦軸がパフォーマンスの高さ、横軸が緊張水準です(緊張とリラックス)。
緊張とリラックスのちょうど中間の時、パフォーマンスは最も高くなります。
この時に、いわゆるゾーンだとかフローと呼ばれる状態になりやすいです。
良いパフォーマンスをしたければ、リラックスしすぎもダメ(注意散漫、ぼんやり)、緊張しすぎもダメ(力みや焦り)。
緊張しやすい人はもっとリラックスできるような行動をとる。
リラックスしすぎている人はもう少し緊張感を持てるようにする。
練習で緊張することはあまりないかもしれませんが、リラックスしすぎはありますね。
程よい緊張感を持って練習することは思わぬ良い結果を招くかもしれません。
リラックスしたり緊張感を持つアプローチは様々です。
音楽を聴いてコントロールする人、深呼吸や瞑想をする人、体を叩いて気合を入れる人、何かぶつぶつ唱えている人。
方法は何だって良いと思います。
自分が緊張とリラックスの真ん中に行ける行動をいろいろと試してみて下さい。
水泳のまとめ一覧です。泳ぎのコツやトレーニング理論など紹介しています。
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