【心理学と水泳】試合で緊張や不安に打ち勝つ①:本番は考えない

みなさん、もしくはみなさんのお子様は大事な試合で本来のパフォーマンスを発揮できなかったという経験はありませんか?

練習の時とは別人かと思われるくらい悲惨な泳ぎをレースでしてしまったことはありませんか?

もしくは試合で自分の実力を全然発揮できなくてお悩みでは?

きっとそれは緊張や不安があったり、大きなプレッシャーがかかっていたりする場面で多いはずです。

 

今回は試合の本番で体が動かなくなる理由や、そうならないための対策(普段の練習からできるものから本番当日まで)を何点かご紹介したいと思います。

この記事を書くにあたっても所々参考にした、おすすめの書籍はシアン・バイロック著「なぜ本番でしくじるのか」です。

 

長くなりそうなので2回に分けてブログ記事にしました!

自動化された動きをコントロールしようとすると失敗する

以前このブログでも紹介したことがあるのですが、何か新しい運動技能が身につくということは「自動化された動き」ができるようになるということです。

自動化とは、いちいち考えてなくてもその技術を再現できるということです。

「体が覚えている」と表現したりもします。

身近な例で言うと歩行です。

いちいち左右の足の角度やタイミング、地面の蹴り方を意識して歩いていませんよね。

むしろ意識した途端にぎこちなくなります。

自動化については以前の記事を参考にしてください。

https://yu3trn.com/swim-joutatu/

 

本来試合の場で発揮される動きというのは「自動化された動き」です。

つまり、繰り返し練習をして体に染みついた動きを試合で出せることが本来の姿です。

それでベストタイムが出なければ、実力がまだ足りていないことになります。

自動化された動きの中で何か修正点があるのでしょう。

一方、ベストタイムが出るときや良い泳ぎができた時も「自動化された動き」を出せた時です。

自動化された動きをしている時は、歩行と同じように、動きそのものの技術については無意識な状態です。

 

ところが、何らかの原因でこの「自動化された動き」をコントロールしようとする時に本来の泳ぎができなくなります。

歩き方を意識するとぎこちない歩き方になるように、試合で泳ぎ方(特に技術面)を意識すると途端にぎこちない動きになるのです。

緊張する場面やプレッシャーのかかる場面では、人はよりよい行動を取ろうと頭で考えすぎてしまい、動きをコントロールしようとしがちです(1)。

ところがそれは逆効果。

無意識に任せることができなくなると、体は本来の動きを見失います。

 

分析による麻痺って言葉も使う

自動化された動きと未熟な動きでは脳の使い方が違う

何度も練習して体に染みつき、自動化されている動きとそうでない動きでは脳の使われ方が違います。

一応言っておきますと、体を動かすのは脳です。

 

自動化されたスポーツ動作を無意識下で行う時は運動野や大脳基底核といった領域を中心に脳を使っています。

この領域は手続き記憶と言われる長期的に技術やノウハウを保持しておくために使われます。

自動化されたスポーツ動作を行う時はこれらの領域を働かせる一方、前頭前皮質のようなワーキングメモリ(*)に関わる領域の使用を減らします。

もしくはこれらの領域とワーキングメモリとのつながりを希薄にします。

*ワーキングメモリは様々なことを同時に考えたり覚えたりするために重要になる脳の機能です。

 

初心者の頃や、新しいフォーム習得のために練習している時、脳はどちらの機能も使います。

意識下で体をコントロールしなければ新しい技術習得ができないので、仕方のないことです。

習いたてやフォーム改善中に動きがぎこちなくなるのはこの影響もあります。

 

つまり、繰り返し練習をして熟練した動作は使う脳の領域(特に考える、意識下でコントロールする領域)を減らした状態で行われます。

ところが、何らかの原因で、無意識下で行うべき自動化された動きを意識下でコントロールしようとするために、本来のパフォーマンスを発揮できなくなってしまいます。

試合は考えてはいけない、練習は考えなくてはいけない

自動化された動きをコントロールしようとする原因は何でしょうか。

「なぜ本番でしきじるのか」の著者であるシアン・バイロックは心配や不安といった感情が直接原因ではなく、触媒となっていると述べています。

自分自身のことや競技に対して懸念を抱いている時、人は最適な結果を出そうとして自分の動きをコントロールしようと試みがちだそうです(1)。

まさに緊張する場面やプレッシャーのかかる場面での感情ですね。

失敗したらどうしよう、タイムが出なかったらどうしよう、負けたらどうしよう、標準記録を切れなかったらどうしよう、といったように。

 

本番では特に技術をコントロールしようと考えると失敗します。

不安や緊張にさいなまれている時、招集上で細かいフォームの確認をしてしまったり、技術的な戦略を立てたりしていませんか?

先にも述べた通り、試合は自動化された動きを無意識下で発揮する場所です。

試合で泳ぐときにそういった細かい技術面に注意を向けることは意識下でのコントロールにおいてしまうことになり、スムーズな体の動きを邪魔します。

 

一方、練習では技術的なことについてしっかり考える必要があります。

特にフォームを改善するときです。

新しい動きを体に覚えさせるにはまずは意識的に動かなければいけません。

無意識でずっと泳いでいては技術的な進歩は見られません。

意識下で理想の動きができるようになってきたら、無意識下でもそれができるようしつこく練習をします。

定期的に技術については無意識で泳いでみて、その姿を見てもらったり撮影したりして進捗を確認します。

 

「考えてはいけない」とは言っても実際の試合は緊張するし、不安でいっぱいだし、どうしても考えすぎてしまいますよね。

次章からはそのための対策を何点か提示していこうと思います。

対策①:試合を想定したプレッシャー下での練習もする

慣れるまで場数を踏むというのは古典的なようで最も効果的なことかもしれません。

プレッシャーや不安がのしかかる場面でパフォーマンスを発揮する機会が多くなれば、どんなに緊張しやすい人でも少しずつ慣れてきます。

 

これは水泳に限らず言えることです。

私も大学院時代はよく人前で発表する機会がありましたが、回数を重ねるごとに緊張や失敗が減っていきました。

ちなみに発表の練習はほとんどしていません。

毎回のぶっつけ本番な発表が練習になっていき、次回以降の発表の糧になっていたと思います。

また、英語がろくに話せない(読めるけど)くせにアメリカでプレゼンをするという窮地を味わってからは、日本の学会発表や学内の発表は片手間の作業になりました。

入学した頃は緊張していたのに。

 

スポーツでも同様のことが起こります。

特に大きなプレッシャーや不安に襲われる試合を経験すればするほど、少しずつ慣れていきます。

とは言っても試合は多くても月1~2回程度。

慣れるには足りない!という方も多いはず。

 

そこで必要なのが試合を想定した練習です。

試合の状況を完全再現することは難しいですが、要素を少しずつ練習に落とし込むことでも慣れに繋がります。

例えばこのような練習です。

・一発勝負の練習(1本だけ全力。高いレベルの制限タイムを決め、絶対に1本で切る。)

・競う練習(友人やチームメイトと競争する練習)

・試合のプールで、試合用水着で、上記2つを組み合わせて行う

対策②:招集場所に早く行き過ぎない

招集場所ではいろんな選手を見ることができます。

招集所に早く来て瞑想している選手、ぎりぎりまでアップをしてから来る選手、招集漏れ寸前の選手。

人それぞれ試合前の時間の過ごし方があって良いと思います。

正解はありません。

 

でも、不安や緊張に弱い選手、考えすぎてしまう選手には「招集場所へ早く行き過ぎないこと」を一度試してもらいたいです。

招集場所に行けば知り合いの選手がいて、会話をしながらリラックスして時間を過ごせるのなら問題はありません。

早く行って体を動かしたりしながらトークに花を咲かせましょう。

でも、そうじゃない選手は招集場所では1人です。

人間は1人になるとつい考え込んでしまいがちです。

普段は考えすぎない人でも、カウントダウンのように迫ってくる自分の出番、隣にライバル選手がいる、周囲から伝わる緊張感といった非日常的な空間にいることで、つい緊張や不安、考え過ぎが襲ってきます。

招集場所へ早く行き過ぎると、緊張や不安、考え過ぎに襲われる可能性が高まりますし、時間が長いと余計なことを思考する量が増えます。

そして不安がゆえに技術的なことに思考が巡りだすと体は無意識下で動かなくなり、本来のパフォーマンスを発揮できなくなります。

他にも「負けるだろうな」「ダメかもしれないな」といった思い込みをし始めると途端に体は動かなくなります。

 

こういった余計なことを考える時間を少なくするためにも、招集場所へはギリギリにいくことをおすすめします。

ギリギリは怖くて嫌なら、せめて早く行き過ぎないことです。

余計なことを考えず、すぐに本番、とにかく泳ぐのみという状況を作ります。

アッププールが使える試合であれば、ギリギリまでアップをする。

招集漏れが怖い人は、暇そうな友達やチームメイトがいるなら招集場所付近まで連れていき、話相手になってもらう(水泳と関係ない話か技術に目を向けない話)というのも対策になります。

対策③考えすぎるのはコーチに任せる

選手はほどほどに考える方が良いかもしれません。

全く自分で考えなというのでは上達できませんが、考えすぎるクセがついてしまうのも良くないかもしれません。

練習でも細かいところはある程度コーチに任せてしまう、もしくは一緒に考えるようにしましょう。

コーチはプレイヤーではないので、体より頭を使うことの方が仕事としてのウェイトが大きいです。

 

とは言っても、コーチが信頼できない選手、コーチがいない選手、コーチと仲がよろしくない選手だっています。

その場合は自分で考えるしかありません。

ただし、切り替えを重要視してください。

練習ではたくさん頭を使うけれど、試合では細かいことを考えない。

意識下での練習と無意識下での練習を使い分けることをしてみてください。

 

長くなりそうなので、この辺で一度切ります。

続きは明日更新予定なのでお楽しみに!

 

<参考文献>

1.「なぜ本番でしくじるのか」シアン・バイロック著 東郷えりか訳 河出書房新社 2011

 

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