今回は足首の柔らかさ(柔軟性)と筋力が水泳のキックの速さにどれだけ影響するか、これらの関係性を調べた研究論文を元に紹介し、最後に水泳をする人におすすめの柔軟性を高めるエクササイズ方法を紹介したいと思います。今のところ研究レベルで出ている答えは「泳ぎによる」「ぐにゃぐにゃならぐにゃぐにゃなほど良いわけじゃない」「柔らかく、強くした方が有利な動作がある」です。
水泳選手と言えば肩、股関節、足首、などいろいろな関節が柔らかいというイメージだと思います。
特に足首の柔軟性は強くてしなやかなキックを打つために必要で、水泳をする人であればストレッチングなどの柔軟性エクササイズは重要視されています。
では、足首が柔らかければ柔らかいほどキックは速くなるのでしょうか?
*研究はあくまでも研究で、ベストタイムを保証するものではありません。
最終的に合うか合わないかは自分次第です
目次
そもそも水泳に関係する足首の柔らかさとはどういう意味?
「足首の柔らかさ」と言っても正確にどういう意味か理解していないとパフォーマンスについて考えることはできません。
柔軟性とは筋肉がどれだけグニャグニャしているかではありません。
柔軟性とは「ある関節の周囲の可動域(ROM: Range Of Motion)」を示します。
簡単に言い換えると、関節がどれだけ広い範囲で動くかということです。
足首の関節(足関節)の動きは4つあります。
・底屈 → つま先立ちになるときの動き。足首を伸ばす動き。
・背屈 → 足首を上に向かって曲げる動き
・内反 → 足の裏を体の内側へ向けるような動き
・外反 → 足の裏を体の外側へ向けるような動き
足関節の柔軟性はキックの速さに影響を与えると考えられています。
あり得ないくらい足首が底屈・内反している水泳選手をテレビなどで見たことがあると思います。
足首の柔軟性とは上記の動作がどれだけ大きな範囲で行えるかを指します。
以下、紹介する内容でも底屈・背屈・内反・外反という用語を使います。
研究では足首の柔軟性はキックの速さに関係していると言われている
McCullough AS らの研究 (2009) では大会のために水泳の練習をしている人とレクリエーションスイマーのバタ足キックの速さと足首の柔軟性の関係を調べる実験が行われました。
被験者は女性のみでしたが、足関節底屈の柔軟性が高いほどバタ足のタイムが速いという結果が得られました。
ドルフィンキックの速さと足首の柔軟性の関係についてもWillems TM (2014) によって研究が行われました。
26人のスイマー(エリート含む)を対象に足首の底屈と背屈の柔軟性と筋力、脚の回旋筋力と柔軟性について評価しました。
それによると底屈・脚の内旋の柔軟性とドルフィンキックの速さには関連がありませんでした。
つまり足首が柔らかければ柔らかい選手ほどドルフィンキックが速いというわけでもない。
ところがこの研究では、被験者はそもそも足首が一般人よりも柔らかい水泳選手だけだったため、一般人との比較がなされていませんでした。
そしてこの研究では足首の関節可動域をテーピングで制限したところ、被験者の足関節底屈と脚内旋の柔軟性が低下し、ドルフィンキックのスピードも落ちました。
つまり、柔らかければ柔らかいほどドルフィンキックが速くなるわけではないけれど、速く泳ごうとするなら一定レベルの柔軟性は必要と言えます。
研究では評価方法をもっと検討すべきだなーって言ってました。
一方、筋力の評価では足関節底屈と脚外旋筋力はドルフィンキックの速さに関係しませんでしたが、足背屈と内外旋の筋力はドルフィンキックの速さに大きく関係していました。
ちなみに2つ目の研究の方が競技力の高いスイマーで1つ目の研究より底屈の可動域が全体的に大きかったです。
同じ人が測定したわけではないので比較はできませんが参考までに。
平泳ぎに関しては脚外旋と足関節内反の柔軟性がパフォーマンスに大きく貢献しているということが分かっています。
論文にアクセスできなかったので割愛。
ただし、平泳ぎも近年ではフォームが変わってきています。
以前のように足首や膝がグニャグニャに動かずとも速い人は速いです。
速く泳ぐには足首にはある程度柔らかさが必要になる
紹介した2つの研究結果をまとめると、水泳のキックが速くなるためには…
・バタ足キックが速くなるには足関節底屈の柔軟性が必要。
・ドルフィンキックを速くするには足関節底屈と脚内旋の柔軟性が必要だが、ある程度で頭打ちの可能性
・足関節背屈、脚内旋の筋力が強い方がドルフィンキックに有利
・平泳ぎは足首内反と脚外旋の高い柔軟性が必要
他にもキックの速さと足首の柔軟性に関して調べた論文を探しては見たのですがあまり見当たらなかったので、これからも探したいと思います。
足首が柔らかいほどキックが速いというのは長年の間コーチや選手の間で信じられてきましたが、研究によるエビデンスはまだ少なく、これからもっと研究を重ねていく必要があるそうです。
水泳は技術面の貢献が大きいスポーツと言われます。
柔軟性や筋力といった体力面もキックの速さに影響しますが、それだけでは速くなりません。
足首の柔軟性や筋力を高めつつ、キックの打ち方の練習にも欠かさず取り組む必要があります。
スイマーのための足首の柔軟性と筋力を強化するエクササイズ
最後に足首の柔軟性を強化するためのおすすめエクササイズを紹介しておきます。柔軟性を高めて効果的なキックが打てるようになりましょう!
まずは誰でも割と簡単にできるのが、正座した状態から両膝を上げるストレッチ。
下の動画の4分30秒あたりからです。
ちなみにこの動画は足首以外にも様々な水泳に役立つダイナミックストレッチ、スタティックが紹介されているのでぜひ見てみてください。(英語ですが動きをマネて見てください)
足首のストレッチのバリエーションとして、正座して足首にポール上の物を敷くのもありです。
体幹部をまっすぐに保ったままやってみてください。
そして柔軟性と筋力の両方を強化する一番のおすすめエクササイスがあります。
最初の動画でも4分50秒あたりで紹介されていましたが、正座から反動をつけて足首で立ち上がるというものです。
できればストリームラインを組んだ状態で。
始めは結構難しいと思います。
柔軟性と筋力が未熟だとケガの危険もあるので無理はしないようにお願いします。
あと、地面に何か柔らかいマットなどを敷いてやってください。足がゴリゴリってなって痛いです。
これがいきなり簡単にできる人はもうそこそこ柔軟性のある足首を手に入れていると言っても過言じゃないと思います。
できない人も下の動画のように手の補助付きでかなり良いエクササイズができます!結構おすすめです!
いかがだったでしょうか?なんだかんだ言ってキックには足首の柔軟性が必要みたいです。
紹介した方法以外にも足首の柔軟性を高めるエクササイズはたくさんあります。ぜひやってみてください!
その他、足首以外に水泳で必要な柔軟性と効果的な柔軟性改善方法はこちらにまとめてあります。
水泳のまとめ一覧です。泳ぎのコツやトレーニング理論など紹介しています。
参考文献:・Willems TM, Cornelis JAM, De Deurwaerder LEP, Roelandt F, De Mits S: The effect of ankle muscle strength and flexibility on dolphin kick performance in competitive swimmers. Hum Mov Sci 36: 167-176, 2014.・McCullough AS, Kraemer WJ, Volek JS, Solomon-Hill GF Jr, Hatfield DL, Vingren JL, Ho JY, Fragala MS, Thomas GA, Hakkinen K, Maresh CM: Factors affecting flutter kicking speed in women who are competitive and recreational swimmers. J Strength Cond Res 23 (7): 2130-2136, 2009.