もうすぐ世界水泳2019が始まりますね。
ところで、水泳に限らずスポーツの試合を見ているとレースや出番の直前までヘッドフォンで音楽を聴いている選手がいますが、あれは一体どんな効果があるのでしょうか?
音楽を聴くことがパフォーマンスアップにつながるのでしょうか?
私たちも試合前に音楽を聴くとすればどんなことにこだわれば良いのでしょうか?
そんな素朴な疑問を解決すべく、科学研究で明らかになっていることを紹介しつつ、実用する場合の注意点について考えていきたいと思います。
今度の世界水泳を見る時も入場してくる選手たちを見る視点が変わるかもです。
みんな何の曲聴いてるんでしょうね。
科学的研究は必ずしも結果を保証するものではありません。
研究はあくまで研究ですので、今後のご参考、娯楽の一環にご利用ください。
目次
選手たちがレース直前に音楽を聴くようになったのは”水の怪物”がきっかけらしい
世界水泳やオリンピックを見ていると、ヘッドフォンで音楽を聴きながら入場して来る選手がたくさんいますが、それをメジャーにしたのは、あの「水の怪物」ことマイケル・フェルプス選手だそうです。
2004年のアテネオリンピック、2008年の北京オリンピックで複数メダルを獲得したフェルプス選手が音楽を聴いていたことから、2012年のロンドンオリンピックではそれ以前より多くの選手が音楽を聴き始めたそうです()。
アテネオリンピックのときの若かりし怪物さん↑(Youtube Olympic channelより引用: レースの動画はこちら)
【運動前に音楽を聴く効果】音楽が体の準備を助けてくれる?
では、レース前に音楽を聴くことでどんな効果があるのでしょうか?
でも残念ながら実際のレースで実験・研究をすることはできません。
研究で可能なことは、試合という条件を抜きにして、運動の前に音楽を聴くことや、レースを想定したタイムトライアルで音楽を聴くことまでです。
というわけで、まずは試合抜きにして、運動の直前に音楽を聴いた場合の効果を見ていきます。
選曲や曲調、歌詞など、音楽には様々な要素があるので研究も難しいそうです。
それを踏まえてご参考に。
音楽が運動のパフォーマンスに影響するるかを調べた初期の研究では、握力が調べられました(Karageorghis CI and Drew KM, 1997)。
①刺激的な曲(激しい曲、アップテンポな曲かな)を聴いた場合、②静かな曲を聴いた場合、③曲を聴かない場合の3パターンを比較すると、刺激的な曲を聴いた場合に握力のパフォーマンスがアップし、静かな曲の場合にダウンしました。
60m走のタイムを測定した研究でも刺激的な曲をトライアルの1分前に聴いた場合に、音楽を聴かない場合よりパフォーマンスが上がりました(Hall KG and Erickson B, 1995)。
こういった研究から音楽を聴くことは心拍数や筋緊張、呼吸数などに影響が出る可能性があることが分かってきました。
加えて、好みの音楽を聴くことが自信に繋がり、不安を軽減することでパフォーマンスに好影響を及ぼし得るということも示唆されています(Karageorghis CI and Priest DL, 2012)。
その他にも運動直前に音楽を聴くことの効果を調べていく中で分かってきたことは以下の通りです。
ほとんどの研究では高強度の運動が対象にされています。
・パワー発揮に影響を与える
・ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)の分泌に影響
・覚醒レベルに影響(ゆっくりな曲では下がり、速いテンポの曲で上がる)
・心拍数を上げてくれる
(Karageorghis CI and Priest DL, 2012)
これらのことが、パフォーマンスを直接的に高めてくれるとは言い切れないようですが、音楽は強度の高い運動をする際の体の準備を手伝ってくれる効果があるだろうというのが分かっているようです。
特にアップテンポな曲や激しい曲などの方が体を覚醒させてくれる効果は高そうです。
バラードなどの静かな曲は覚醒レベルを下げるようです(これに関してはまた後で考察します)。
歌詞が勇気づけてくれるとか、自信を持たせてくれるという効果についてはまだこれから検証が必要な印象です。
【水泳のパフォーマンスと音楽について調べた研究はまだ少ない】
水泳のタイムトライアル前に音楽を聴くことの効果を調べた研究もありました。
被験者の競技レベルは高く無いものの、200m自由形のトライアルで音楽を聴くことでタイムが上がったとの報告がされています(Smirmaul BP et al, 2015)。
トップレベルの選手による緻密なレース準備や強いメンタリティにさらなる効果を出すかどうかは研究ではまだわかっていません。
ですが、ここまでの内容を踏まえるとポジティブな効果は期待できそうです。
それを体感的に分かっているからこそ、レース直前まで音楽を聴いているのかもしれませんね。
【運動や練習と試合の違い】試合では既に、、、、?
ここまで紹介してきた研究は、いずれもタイムトライアルや実験でのデータです。
ところがタイムトライアルと試合本番では、緊張感やプレッシャー、相手選手、体調などが全然違うので研究データをそのまま試合本番に当てはめることはできないかもしれません。
音楽が高強度運動の準備を手伝ってくれるのは分かっています。
ノルアドレナリン分泌や心拍数の高まりが覚醒レベルを上げてくれます。
体が「さあこれから思いっきりやるぞ!!」って状態になります。
、、、、、、、、、でもですよ。よく考えてください。
これって人それぞれじゃないですか。
試合になるとめっちゃ緊張する人とか、高ぶりまくってハイになる人もいるじゃないですか。
その場合、既に心拍数もノルアドレナリンも覚醒レベルも十分に高いことが考えられます。
もう戦闘の準備ができているような気が、、、、。
その人がアップテンポな曲を聴いて、それ以上に上げちゃうと逆に空回りしたり、冷静さを失ったりする可能性もあります。
つまり、競技や戦略、その人の特性によって調整する必要があるかもしれません。
緊張でいっぱいいっぱいになる人、高まり過ぎてしまう人、試合に冷静さを求める人は静かな曲で落ち着けることの方が効果が出るかもしれません。
一方、試合では何だかいつも準備不足感がある人や競技や戦略の都合上思いっきりハイになる必要のある人は、研究で示されている通りアップテンポな曲などを聴いて覚醒レベルを上げてあげる。
とりあえず、音楽を試す場合はいきなり大事な試合で使うのではなく、練習試合などで試して自分に合う方法を見つけていくのが良さそうです。
まとめ:結局は自分の好みや特徴、気分に合った曲を聴くのが一番?
今回の記事の結論です。
【音楽を試合の直前まで聴く効果】
・アップテンポな曲などは心拍数や覚醒レベルをはじめとした運動前の体の準備をサポートしてくれることでパフォーマンスが上がる可能性がある。
・静かな曲は逆の影響があるが、利用の仕方次第かもしれない。
・不安の軽減や自信を持たせてくれるなど、気持ちの面でプラスの影響がある可能性がある。
【参考文献】
・Karageorghis CI and Drew KM: Effects of pretest stimulative and sedative music on grip strength. Perceptual and Motor Skills 1997 83(3 Pt 2):1347-52.
・Karageorghis CI and Priest DL: Music in the exercise domain: a review and synthesis (part Ⅰ). Int Rev Sport Exerc Psychol 2012 Mar; 5(1): 44–66.
・Hall KG and Erickson B: The effects of preparatory arousal on sixty-meter dash performance. The Applied Research in Coaching and Athletics Annual 1995 10, 70-79.
・Smirmaul BP, Dos Santos RV, Da Silva Neto LV: Pre-task music improves swimming performance. J Sports Med Phys Fitness. 2015 Dec;55(12):1445-51.