今回の内容はクロールを泳ぐときの手の使い方のコツを体の繋がり(主に筋膜と神経)にフォーカスして皆さんと一緒に考えていきたいと思います。手の向きや力を入れる意識の持ち方ひとつで泳ぎは大きく変わります。また、今回の内容は他の泳ぎにも応用が利くのでぜひ活用してみてください。
手
皆さんがストロークで最大限効率よく力を発揮するにはどうすれば良いのかを考えるヒントになれば幸いです。
この記事は以下のようなお悩み解決に役立ちます。(一例)
いずれの悩みも、手の意識の持っていき方で力の伝達の効率化をすることや手の向きを考えることで解決します。
目次
手の意識がなぜ泳ぎを変えるのか
泳ぎの中で手の役割は主に水をキャッチして後ろにかくことです。
ですが、この時に最適な向き、最適な力の入れ方ができていないと手を最大限活用できているとは言えません。
人間の体には無数の筋肉があります(約600個:意識できないものも含む)。
筋肉は単独で動くこともできますが、ほとんどの場合は複数の筋肉が連動して動きます。
ただ膝を曲げるだけ、肘を曲げるだけでもたくさんの筋肉を同時に使います。
そして筋肉は1つ1つがバラバラに存在しているのではなく、指先から頭のてっぺんまで筋膜や結合組織を通して繋がっていると言われています。
例を挙げますね。
前を向いて背筋をまっすぐにして走るか、下を向いて猫背で走るかどっちの方が速いですか?
多分99.9999%の方が前を向いて背筋をまっすぐにして走った方が速いと思います。
走る時に一番使うのって脚(足)のはずなのに頭や背中の使い方が影響してますよね。
この場合、体の前側と深部の筋のつながりが過剰に短縮し、後ろ側が過度に伸びることで手足を効率よく動かしたり力を伝えることができなくなっています。
水泳でもこの理屈は使えます。
筋肉は指先から頭まで筋膜で繋がっているので、指先の使い方が腕や胴体についている筋肉に影響を及ぼします。
(逆も然りで、体の中心部の使い方は末端の機能に影響します。→姿勢やストリームラインの練習をくどいほどしますよね。)
筋膜の繋がりはアナトミートレインという考え方から水泳に落とし込んでいます。
専門用語はできるだけ省いて、かみ砕いて解説します。
アナトミートレインは本にもなっています↓
日本語版もあるようですが、訳がイマイチとの説もあります。
クロールの手のコツ①:親指からエントリーでいいの?
まずはクロールのエントリー局面から順番に説明していきます。
皆さんはいかがでしょうか?どの指からエントリーしていますか?
実は、エントリーの時にどちらの指側から水に手を入れるかって結構大切です。
結論から言うと親指側ではなく、小指側or外側三本のどれか(中指、薬指、小指:同時でも可)が良いです。
手の角度自体は水と平行か、傾けても45°くらいです。
よく習うクロールの手のエントリーは親指からというのが広く一般的です。
でもこれ、もう古いですし肩の故障リスクだってあります。
水泳による肩の故障に関する記事はこちらです↓研究論文を基に書いています。
そちらの記事でも書いていますが、親指からエントリーしてしまうと肩が過度に内旋(内に捻る)してしまい、肩関節にある腱板や周辺の組織が骨に挟まれてしまい炎症や腫れが出ます(インピンジメント)。最悪の場合損傷して手術です。
もちろん親指からのエントリーだけが肩の過度の内旋に関係しているわけではありませんが、そうなりやすい傾向にあります。
体は繋がっているので、親指が内側に回ると肩も内側に回りやすいです。
また、親指からエントリーしてもその後のキャッチ動作への移行に特にメリットはないと思います。
というわけで、親指からのエントリーはあまりおすすめしません。
小指側or外側三本のどれか(中指、薬指、小指:同時でも可)をおすすめします。
小指側だからと言ってチョップをするようにエントリーするのではなく、手の傾きは0~45°くらいまでの範囲で、もちろん指先から順にエントリーします。図のような感じ。
手首側から見た図↑
小指側からエントリーすることで、その後のキャッチ動作への良い移行ができます。
また、筋膜の繋がりから考えると、小指側の筋肉は上腕三頭筋→ローテーターカフ(肩の安定に関する筋群)に繋がっているので腕を安定して前にのばすスイッチをONにしやすいのではないかと考えられます。
また背中にある菱形筋という肩甲骨を内側に寄せる筋肉にもつながっています。
小指側を伸ばす意識を持つことで菱形筋も伸ばしやすく、肩甲骨をしっかり開いてリーチの長いストロークがしやすくなります。
クロールの手のコツ②:キャッチは小指側から
これはテキトーに取ってきたフリー画像です。(自由形:Frだけに)
普通にクロール泳いでるわけですが、写真のような真っ直ぐな手の角度でキャッチをして水をかこうとすると、水が小指側に逃げやすいです。(下図参照)
泳いでいる時の目線からだとこんな感じ↓(右手)
水を逃がさないためには、小指側から力を入れて、小指から始動・先導し、手のひらをやや内側に向けるようにしてキャッチします。
泳いでいる時の目線だとこんな感じです。↓(右手)
クロールでは小指側からキャッチを始動することで水が外に逃げるのを防ぐことができます。
エントリーで小指側から入るのを意識してもらったのは、小指側から入ったその角度のまま小指側から力を入れ始めてキャッチをすれば動作が自然につながるからです。
この動き、スカーリングをよくしている人なら何気なくやっています。
内側に水を集めてくるインスイープの時は自然と小指側から動かしていると思います。
クロールの手のコツ③:水を抑える時は親指側に意識
クロールではキャッチをした後に一瞬水を下に抑える場面があります。
この時に主に使われる筋肉は大胸筋や小胸筋を中心とした体の前面の筋肉です。
そしてこれらの筋肉は筋膜を通じて手の指全体、特に小胸筋は親指側に通じています。
特に手を挙げた状態(クロールで手を前に伸ばした時)でこの繋がりはONになります。
小指側でキャッチをした後、プル動作の序盤の水を抑える際には手のひら全体を同時に動かしつつも親指側に少し意識を強く持つと良いです。
ただし、手首が回って手のひらが外側に向かないように注意です。
クロールの手のコツ④:水をかくとき(プル)は手のひら全体同時に
次はクロールのストローク動作の中で最も推進力を生むプル局面についてです。
大前提ですが、水をとらえるのは手のひらだけでなく前腕(肘から下)全体です。
①筋膜の繋がりを意識した力の伝え方
②前腕の適度な脱力
前腕の脱力についてはまた別の機会で書きますね。
筋膜の繋がりを意識した力の伝えかた
指先を動かす筋肉は肘・肩の筋肉を通じて、体の中心部についている腕を動かす大きな筋肉(大胸筋や広背筋を含む)と、そこから繋がって回旋動作や姿勢維持の役割を担う腹筋群~お尻・太ももの筋肉まで対角線でつながっています。
本来は手を挙げた状態でしっかりと連結して機能します。
なんとなくイメージはつかんでいただければそれで十分かと思います。
そして、この繋がりラインの始まりは手のすべての指からスタートしているので、プル動作を行う際はどこか特定の指ではなく、5本すべての指から力を伝えて水をかいていく意識を持つと良いです。
そうすることで大きな筋肉、および全身を使って効率よく力を伝えやすくなります。
ただし、手首から肘までの前腕部分は脱力を意識します。
その意識を持つことで過度に手が力みにくくなり、肘から先に動いて肘落ちをすることも起こりにくくなります。
また、プルでは手に水圧がかかるため、力が弱い側から水が抜けていくので手全体に均等に力を配分するように意識します。
クロールの手のコツ⑤:フィニッシュは若干小指側を意識
プルで水を後ろまでかいたら最後はフィニッシュです。
フィニッシュ動作では主に肘を伸ばして水を押しこむと思います。
この時、肘を伸ばす動作には先にも紹介した小指側のラインにある筋肉(上腕三頭筋など)が大きく関与します。
なので、最後のフィニッシュ動作をする時は手のひら全体で押す中でも、小指側へ意識を若干強くもつと良いです。
クロールの手の使い方まとめ
ここまで解説してきたクロールの手の使い方・意識の持ち方を最後にまとめておきます。
エントリー:小指側から
キャッチ:小指始動を意識
プル序盤:少し親指側に意識を持って水を抑える
プル:5本全ての指先を均等に意識
フィニッシュ:小指側をやや強く意識
水泳のまとめ一覧です。泳ぎのコツやトレーニング理論など紹介しています。