両手を交互に動かすクロールと背泳ぎでは「ローリングが大切」と言われますが、なぜ大切かご存知ですか?ローリングは楽に泳ぐためにも速く泳ぐためにも重要な動作になります。今回はローリングがなぜ大切か、動作のコツ、練習方法について解説します。
ローリングは1軸で泳ぐ場合に使われるテクニックです。最近ではあまりローリングを意識しない2軸泳法も主流になってきています。
ここではとりあえず1軸で泳ぐ場合のローリングについて説明します。2軸泳法についてはオリンピック代表選手を数多く輩出している藤森善弘氏の書籍があります。結構分かりやすく解説されていておすすめです。
もしくはローリングを入れながらも骨盤をぶらさないで泳ぐ意識を持つことで1軸泳法の弱点も補えます。
ローリングの前に基本の姿勢ができていることが前提なので、姿勢に不安がある方はこちらの記事も参考にしてみてください。
目次
ローリングとは
まずはこちらの動画を見てください。もちろん途中まででもOKです。2012年のロンドンオリンピックの男子1500m自由形の動画です。
https://www.youtube.com/watch?v=T5FlDy3YmDQ
1ストロークごとに腕だけでなく体が横に向くようにして交互に入れ替わっているのが分かります。これがローリングです。入水とともに腕がグイっと前に伸び、体を使ってローリングすることでさらに腕が前にいきます。速い人が泳いでいると実際の身長より大きく見えるのはこれが1つの理由でもあります。
ローリングが大切な理由①【水の抵抗を減らす】
では、このローリングはどうして大切なのでしょうか?
下の図を見てください。ローリングを使わない場合と使う場合をそれぞれ簡単な図で示しています。クロールを泳いでいる時の頭と肩の位置関係を正面から表しています。
*実際はこんなにも真正面を向いて泳ぐことはほとんどないですが。わかりやすくするため顔は真正面イラストです。
ローリングを使わない場合
ローリングを使わない場合は頭と両肩が水面に対してまっすぐ並んでいます。水の抵抗は進行方向から受けるので、泳いで前に進んでいる時、肩から頭そして反対の肩まで抵抗を受けます。水の抵抗を受ける範囲を赤で囲むとこんな感じになります。これだといくら腕だけを一生懸命前に伸ばしても抵抗が大きい泳ぎになります。
ローリングを使う場合
一方、ローリングを使うと片方の肩がしっかりと水面から出るので、水の抵抗を受ける範囲が減ります。また、ローリングをすることで水を常に縦で切っていくように泳ぐことになります。
ローリングを使わない場合は頭と肩の面全体で水の抵抗を常に受けながら進むようなイメージ。ローリングを使う場合は水を縦に切りながら抵抗を受ける面を少なくして泳ぐイメージです。水は空気の1000倍近い密度があるので、水中で動くときは常に空気の何倍もの抵抗を受けることになります。水の抵抗が大きいと、せっかく頑張って10の力でストロークをしてもキックをしても実際に推進力になるのは5とか3とか….進まないで疲れるだけです。いかに水の抵抗を減らし、ストロークやキックで得た推進力を殺さず最大限伝えるかが大切です。
ローリングが大切な理由②【腕を抵抗無くリカバリーしやすくするため】
ローリングはリカバリー動作を楽にするために役立ちます。クロールのリカバリーの動き自体は体側に沿って腕が上がっている(肩関節の外転:腕を横から上げる動作)だけです。ローリングで体がサイド姿勢に近づいていることでリカバリーが楽になります。
ローリングが大切な理由③【効率良く力を出して伝える】
ローリングが大切な理由の3つめは効率よくストロークの力を出すためです。筋肉の構造上、大きな力を発揮するには2つの決まりがあります。
1.「伸びた状態」から一気に「縮む」 *縮むというのは筋を収縮させて力を発揮すること。
2.適度な脱力状態から一気に力を入れる
主にローリングでは1の決まりを利用します。伸びた状態では筋肉にテンションがかかります。そこからつっ張った筋肉を一気に縮めると効率よく大きな力を出すことができます。野球のバッティングで、いったんバットを後ろに引いてからスイングすると思います。バットを後ろに引くことで背中の筋肉にテンションがかかり、その後の力強い回転を生み出します。このように大きな力を出す前の準備を予備動作と呼びます。
水泳の場合にも予備動作は利用できます。その1つがローリングで、腕を前に伸ばして肩が軽く入り、体がややサイド姿勢になることで背中の筋肉、特に広背筋にストレッチがかかります。ストロークは広背筋の力を使って行います。ローリングをすることは広背筋にテンションをかけ、ストロークの予備動作になります。
別に大きな力を出したいわけじゃなくて、楽に泳ぎたいだけという方でも大きな筋肉(=大きな力が出る)で効率よく力を出すということで結果的に楽な泳ぎになります。腕の筋肉で10の力を出すより背中の筋肉で10の力を出す方が楽です。
ローリングの弱点
ローリングにも弱点があります。弱点があるからこそ最近では2軸で泳ぐ人も増えてきているわけです。
1つ目の弱点は、バランスがとりにくいということ。
サイド姿勢で1軸になるのでどうしてもバランスがとりにくい場合があります。バランスが崩れると軸がぶれてしまって効率の悪い泳ぎになります。
2つ目の弱点は、キックを真下にうてないこと。
サイド姿勢を入れ替えながら泳ぐので、どうしてもキックの方向が頻繁に変わります。キックの推進力を最大限に大きくするという点ではもしかすると不利かもしれません。胸郭がよく動く人は骨盤をまっすぐに固定して胸郭より上だけでローリングする場合もあるようですが、なかなか簡単にできるものでもなさそうですね。
こういったローリングの弱点を克服するべく推奨されるのが最初にも紹介した2軸クロールです。
ローリングで1軸で泳ぐのか、それとも2軸で泳ぐのか、必ずしもどちらが良いとも悪いとも言えません。目指す泳ぎや自分の得意不得意もあるので好きな方で良いと思いますし、どっちも試してみて合う方で良いと思います。
もしくはローリングをしっかり入れながらも、骨盤をぶらさずにキックをまっすぐ打って泳ぐコツも紹介しているので、そちらも参考にしてみてください。
ローリングの陸での練習とコツ
ローリングの大切さと弱点が分かったからと、闇雲に取り入れても泳ぎは良くなりません。間違った方法でローリングをすると、それはそれで泳ぎが崩れてしまいます。
ローリングで捻ろう捻ろうと意識しすぎると腕が入りすぎます。右手であれば左に行き過ぎる。左手であれば右に行き過ぎてしまします。ローリングは腕だけでなく、体全体の左右の入れ替えです。腕だけでローリングをしようとしてしまうと肩が入らず上手くいきません。ではどうすれば良いか?簡単な習得方法を考えたので是非お試しください。
ローリングは「届くか届かないか微妙な高さにある物を片手で取るイメージ」で行います。高いところの物を取ろうとするとき、つま先立ちになって手を伸ばします。この時の姿勢をローリングに使います。ただ、このままではローリングにならないのでもうひと工夫します。
片手をあげて壁の前に立ちます。手を壁にくっつけます。高いところのものを取るように、つま先立ちになります。この時、手は壁に触れたまま真っ直ぐ上にスライドさせます。一旦もとに戻ります。これだとまだ背伸びです。次は、体を軽くひねりながら行います。体の横に壁が来るように90度ひねりながら伸びていきます。つま先も回転しちゃって大丈夫です。終わったときに体の横で壁をタッチできていればOKです。手は左右にいかないように。スタート地点からまっすぐ上に移動するだけです。ただ、ここまで回転してしまうと実際に泳いだらひっくり返ってしまいます。
今の動きを、頭の位置を固定して行います。まっすぐ壁を見たまま頭を動かさずに背伸びしながら回転します。すると、途中で頭の位置をキープしたままだとこれ以上回転できないという地点があります。そこまでがローリングで実際に使う範囲です。だいたい90度回らないくらいだと思います。つま先も回転してOKです。ローリングをする際は上半身だけでなくお尻まで左右それぞれ一直線で行います。
最後に仕上げです。ローリングはお尻から始めます。お尻から順番に上へ持ち上げるように回転して今の動作を行ってみてください。これでローリングの完成です(陸で)。ここからストロークをして、左右のローリングとプル動作をマッチさせていきます。何度かシャドーで泳いでみてください。後は水中で使えるようになるだけです。
ローリングの水中での練習方法
最後にローイングを水中で練習する方法をご紹介します。
特別な練習をしないといけないわけでなく、陸で習得した動作を実際の泳ぎの中で取り入れていくという練習スタイルでもOKです。
それでは感覚がつかめないという場合にはドリル練習が効果的です。まずは背面気を付けの状態でキックをします。姿勢が安定したら、さっき陸で確認した自分が回れる範囲で足から肩までを左右どちらでもいいのでローリングします。次は反対側で感覚を確かめます。右左両方の位置が把握出来たら、キック6ビートで左右をチェンジ。この時もお尻を起点に左右の入れ替えをして下さい。
背面キックでは呼吸が続くので体の入れ替えに集中しやすいと思います。感覚がつかめたら、下を向いた気を付けキックで同じ要領でやってみてください。呼吸の時は立ってもOKです。
ここまで出来たら片手を前にしたサイドキックをします(前の手は下側)。反対(上側)の手は体側で気を付け。初めは顔を上げた状態で良いです。サイドのバランスが取れたら、顔をつけます。顔をつけてバランスが取れたら体側の手をリカバリーしてきます。エントリーする少し手前からお尻を入れ始めて左右をチェンジします。反対向きの顔上げサイド姿勢までチェンジします。以下これを繰り返してローリングの感覚を養います。
ローリングについての続きはこちら↓