速く楽に泳ぐために「伸びなさい(グライドしなさい)」とよく言われますが、伸びることは十分な推進力があってこそのものです。推進力が不十分、もしくは自分が生み出せる推進力に不釣り合いな時間伸びていると逆に進みません。
目次
泳ぎの中で推進力を生むシーンと生まないシーン
泳いで進むということは、推進力を生むから進むということです。
水泳で最も大きな推進力を生むのは、飛び込みもしくは壁を蹴ってスタートした時です。
壁を蹴って得た推進力を全く殺さずにゴールまで泳ぎ切ることが理想です。
しかし、摩擦抵抗があったり、人間が完全な流線型でなかったり、スタートで生める推進力にも限界があったりするので現実は不可能です。
手足を動かし、新たな推進力を生んでいく必要があります。
では、推進力を生むシーンはいつでしょうか。
それは、手足で水を動かす時です。
前方で水をキャッチする、後ろへかいていく、キックをうつ。
水を動かすシーンにある共通点は2つです。
①水の中で行う
②体が動いている
推進力を生まないシーンではこの2つを満たしていません。
例えばリカバリー動作(水の上から腕を前に戻してくる)ですが、動いてはいるけど、水の外で行う動作です。
推進力をえることはできません。
では今回のテーマである「伸びる(以下:グライド)」ときはどうでしょうか。
グライド時は腕が水の中で伸びていて、スイ―っと進む感覚があります。
しかし動いていません。
ということは推進力を新たに生んでいるわけではないということになります。
ということは、グライド時に進んでいると感じるのは、グライド前に手のかきやキックで生んだ推進力のおかげということが言えます。
推進力のおかげで伸びていられる
推進力があるからこそ、その後スイ―っとグライドして楽になれます。
ですが、グライドしている時間が長すぎると勢いが徐々になくなってきて、最後は沈んでいきますよね。
これは、どういうことか。
そもそもグライドでは推進力を生まないので、極論を言えばけのびで止まっているのと同じです。
でもグライド前に推進力を生んでいるから、グライドしてる間も身体は前に進むということ。
手のかきやキックで生んだ推進力を貯金に例えると、グライド時はその貯金を徐々に使っていくようなイメージになります。
そして推進力の貯金がなくなれば止まります。
推進力の貯金が無くなる前に、また次のキックや手のかきをすると推進力が生まれ、止まらず沈まず前に進みます。
この推進力の貯金が大きいほど、勢いがなくなるまでの時間は長くなります。
手のかきやキックで生み出せる推進力が小さいほど、勢いを保ってグライドできる時間は短くなるので、伸びてないでさっさと動いた方が結果的によく進みます。
ちなみに、推進力を生むシーンと次の推進力を生むシーンの間が短いほどスピードが出ます。
50m競技などでは、泳ぎのピッチがとても速く、グライドなんてほとんどしていません。
最大泳速を求めるために、推進力を次々に生みます。
”貯金”を使う前に次の”貯金”をどんどんしていくようなイメージです。
推進力を生まないグライド局面を削ることで、体力の消耗は早くなりますがスピードは出ます。
グライドが長いと最大泳速は出にくいですが、動かないシーンがある分、体力の消耗が緩やかになります。
上級者のグライド時間が長いのは貯金に余裕があるから
推進力の貯金がゼロになると止まります。
ゼロにならなくても、ゼロに近づくほどに勢いはなくなっていきます。
上級者のグライド時間が長くても勢いがなくなりにくいのは、一回の手のかきやキックで生み出せる推進力が大きい(貯金が大きい)からです。
それを知らずして、速いあの人あの選手が長くグライドしているからといって真似をしても、速く泳げません。
グライド姿勢を改善するために練習をするのは良いことですが、長いグライドをしたいのであれば手のかきやキックで大きな推進力を生むための練習をしなければいけません。
例えば200m平泳ぎの短水路世界記録保持者のプリゴダ選手。
25mごとのストローク数は3回~5回です。
それでも2分00秒16で泳ぎます。
もちろんグライド姿勢はとっても美しく抵抗の少ない姿勢ですが、1回1回のストロークで生まれる推進力は凄く大きなものです。
ものすごく大きな推進力を生んでいるからこそグライドが長くても大丈夫なのです。
ストローク数が減ったことをどうとらえるか
練習のなかでストローク数(何回手をかいたか)をカウントし、それが減ったか増えたかで上達を判断する場合があります。
そういった練習をする場合には、タイムと擦り合わせること、自分がどこの技術にフォーカスしているかを明確にすることが大切です。
タイムが悪くなっていれば、グライド時間を長くしてストローク数を減らすことで、ただ楽をしているだけです。
タイムが変わらないか上がっているのであれば、楽に速く泳げたということ。
そしてそれは推進力を高める努力をした結果なのか、グライド時の技術を改善する努力をしたのかを分析してみてください。
まとめ:「伸びる」だけでなく「進む」ための努力も
進む(推進力)という前段階が十分にないと、伸びても(グライドしても)スイ―っと気持ちよく進みません。
3つの前提を覚えておいてください。
・推進力があるからこそグライド時も楽して進めること。
・グライドしている時は推進力の貯金を使っていること。
・グライドしているということは推進力を生むシーンと次に推進力を生むシーンの間を長くしていること。
→断続的に推進力を生むことになる
グライド姿勢を改善する練習は、自分が生み出せる推進力の貯金を最大限効率よく使うための努力。
一方、推進力を大きくするための練習は、貯金の絶対量を増やす努力です。
前提を理解した上で、どちらも平行して取り組むのがベストかなと思います。