コーヒーやエナジードリンクに含まれるカフェインがスポーツや筋トレ、有酸素運動のパフォーマンスアップに効果的かもしれないということをご存知ですか?運動前にコーヒーでほっと一息ついてみることで思わぬ効果があるかもしれません。今回はコーヒー1~2杯という現実的に摂取可能な量のカフェインが運動に与える効果について、これまでの研究で分かっている内容を簡単に紹介していきます。
先に言っておきます。
コーヒーやエナジードリンクは用法容量・常識の範囲を守って摂取してください。
カフェインと運動・スポーツに関する研究
カフェイン摂取が運動に及ぼす影響を調べた研究は今から100年以上前に始まりました。100年も前から人は「コーヒー飲んだらなぜか体が良く動く」と感じていたのでしょう。実際はどうかわからないので想像ですが(笑)
今から111年前の1907年のRivers WHR and Webber HNの研究で既にカフェインは筋活動に対してポジティブな影響(筋疲労軽減)を与えることが分かっています。
スポーツパフォーマンスに及ぼす影響についてもかなり前から研究されており、特に有酸素性運動を中心にパフォーマンスの向上が認められています。スポーツ生理学の分野でレジェンドな研究者Costill DL先生らによる1978年の研究では、普段からトレーニングを積んでいるサイクリストが80%VO2maxで疲労困憊に至るまで何分自転車を漕げるか測定したところ、運動の60分前にカフェインを330mg(約5mg/体重1kg・コーヒー4~5杯分相当)摂取すると疲労困憊になるまでの時間が伸びたと報告されています。
また後で説明しますが、これ結構な量のカフェインですよね。僕は気分悪くなる自信あります。コーヒーはしょっちゅう飲みますが特別強いわけでもないので運動前にこんなにカフェイン取ろうと思えません。
カフェインの摂取は2004年まではWADA(世界アンチドーピング機構)によってスポーツ競技時の禁止物質、つまりドーピングとして制限がかかっていました。2004年以降はリストから外れ、今では摂取の制限はありません。制限はないものの、監視の対象にはなっているみたいです。普通じゃない量を競技力向上のために摂取する人が増えまくるとどうなるかわかりません。
ドーピングと聞くと、そんなものがコーヒーに?!とビックリするかもしれませんが、当時のドーピングで引っかかるカフェインの量は我々一般人がコーヒーを1杯や2杯飲んだ時のカフェインの量程度では遠く及びませんのでご安心を(笑)
当時のカフェインのドーピング基準は尿中に12µg/mlでした。この量は体重1kgにつき10~13mgのカフェインを一気に摂取すれば到達するそうです。体重70kgであれば700~800mgくらいのカフェインを一気に摂取する感じです。これってすごい量です…。コーヒー1杯のカフェインの量はおおよそ100mgなので、コーヒー7杯分を一気飲みもしくは7倍濃縮の特濃コーヒーをグイっと一気に…。考えただけで気分悪い。ってかたぶん本当に気分が悪くなる量。カフェインに弱い人だと確実にぶっ倒れる。
おそらくアスリートが試合前にコーヒーがぶ飲みってことはなかったでしょうが(笑)
研究ではコーヒー1~2杯分の少ない量のカフェイン(体重1kgにつき3mg前後)でも効果があるということが分かっています。70kgの人であれば200mgくらいです。さっきのCostill先生も翌年の1979年には250mgのカフェイン摂取でパフォーマンスが向上したとの報告をしています(Ivy JL et al, 1979)。これなら日常的にトレーニングをする人にとっても実用的かも。
また、スプリント競技や筋トレでもカフェインを摂取することでパフォーマンスが向上するという報告はなされています。後の章で紹介するのでそちらをご覧ください。
カフェインは摂取量によってその効果の出方が異なってきます。カフェインの効果的な摂取量は2~9mg/kg体重と言われており、3段階で摂取量を区分して研究が行われています。
・High dose (いっぱい)….9mg/kgを超える量の摂取。
・Moderate dose (普通・そこそこ).,..5mg/kg前後。
・Low dose (少量・コーヒー1~2杯)….3mg/kg前後。
今回はそのなかでもLow dose (少量)のカフェイン摂取がパフォーマンスに及ぼす影響について紹介したいと思います。コーヒー1~2杯であればトレーニングの1時間前くらいに手軽に摂取できる現実的な量です。トレーニング前にコーヒーで一息ついていきましょう!
カフェイン摂取が運動パフォーマンスを向上させるメカニズム
コーヒーやエナジードリンクなどからカフェインを運動前に摂取することはパフォーマンスアップに効果的であると証明されています。カフェインは比較的吸収が速い物質で、コーヒーや錠剤だと飲んで15分ほどで血中に現れ、摂取後40~80分で血中濃度がピークになります。半減期(血中濃度が半分になる時間)も3~5時間で長い時間血中に残って効果を発揮し続けてくれます。夜に飲んだら寝れないかもね。
そして、その効果がどこにどう出るかは摂取量によって変わってきます。(Spriet LL, 2014 )
High dose (いっぱい)….9mg/kgを超える量を摂取した場合
明らかな生理学的変化が体に現れます。
・心拍数の増加
・カテコールアミンレベルの上昇….アドレナリンやドーパミンなどの化合物の総称交感神経系に作用。
・血中乳酸レベルの上昇….乳酸をエネルギー源として使いやすくなる
・血中遊離脂肪酸が増加….脂肪をエネルギー源として使いやすくなる
このように運動パフォーマンスを上げるような変化がしっかり体に出ます。さすがは昔ドーピングになってただけあります。この量を摂ろうと思うとサプリメントですかね。けどこの量だと副作用も出るみたいです。よくやるなぁって思います。やめてくださいね。絶対おすすめしない。
Moderate dose (普通・そこそこ).,..5mg/kg前後を摂取した場合
生理学的変化がHigh doseほどではないけど現れるみたいです。この量でも副作用は現れるようです。5mg/kgでmoderateって言っても体重70kgの人でモンスターエナジー2本半ですよ(笑)
Low dose (少量・コーヒー1~2杯)….3mg/kg前後
この量だと心拍数の増加や血中乳酸、カテコールアミン、遊離脂肪酸の上昇などは起こらないそうです。それでもパフォーマンスに効果があると言われるのはなぜか?
それは、カフェインが筋肉ではなく中枢神経系に効くからです。中枢神経系とはざっくり言うと神経がたくさん集まっているところです。神経がたくさん集まっているところと言えば….?
脳!
カフェインは脳に効くらしいです。脳の覚醒度や注意力の向上を引き起こします。なぜ効くかちょっと難しい話になりますが説明します。筋収縮が起こるとアデノシンという物質が細胞内で増加します。アデノシンはその受容体(受け皿)であるアデノシンレセプターにくっつくと神経の興奮やシナプス伝達を阻害します。カフェインはアデノシンに構造が似ているので、代わりにアデノシンレセプターにくっついてアデノシンによる神経系への影響を阻害します。結果的に脳の覚醒度や注意力といった神経の活動レベルが維持されます。
アデノシンがレセプターに結合することは「痛み」とも関係しているとわかっており(Sawynok, 1998)、もしかしたらカフェインで運動中にバテテきた時とか追い込みによる痛みも緩和されるのではと考えられましたが、5mg/kgと2mg/kgでは効果はなかったという報告(Astorino TA, 2011)がされています。
あ、大量摂取(10mg/kg)だと効果があるそうです(笑) (Motl RW et al, 2013)
ではどうして少量のカフェイン摂取が運動のパフォーマンスを上げるかというと、はっきりしていません。どうやら神経系に作用して筋力の発揮にも影響を与えるようですが(Kalmar JM, 2005)、ほとんどの研究で摂取量が多い…。少なくとも5~6mg/kgは取っています。それでもおそらく神経系への作用で間違いないのでしょう。
3.カフェイン摂取による副作用はあるの?
よくカフェインが苦手とか、カフェイン中毒って言葉を聞くと思いますが運動前にカフェインを摂取することで副作用ってあるのでしょうか?
あります。特にHigh dose(10mg/kg前後) の摂取では高確率で出るらしいです。5mg/kgに減らしても出る人は出るし、弱い人だとコーヒー1~2杯でもしんどいみたいです。研究で5mg/kgとか多かったけど被験者大丈夫だったのかなあ。副作用はこんな感じです。
・胃腸の不快感
・緊張感、神経が過敏になる
・精神の混乱
・注意散漫
・寝れぬ
特に普段からカフェインをあまり摂取しない人では症状が出やすいようです。
4.カフェインが有酸素運動のパフォーマンスを向上させる
少量のカフェインが有酸素運動のパフォーマンスを上げることは様々な研究で明らかになっています。先述したCostillらの研究もそうです。
Graham TE and Spriet LL(1995)はトレーニングを積んでいるランナーを対象に有酸素パフォーマンスの評価を行いました。プラセボ群に加え、カフェインを運動1時間前に3mg/kg、6mg/kg、9mg/kg摂取するグループに分けて85%VO2maxでのトレッドミル走で疲労困憊になるまでの時間を測定したところ、3mgと6mgを摂取したグループでパフォーマンスが向上しました。ところが9mgのグループではパフォーマンスが向上しませんでした。さらに3mgと6mgのグループではパフォーマンスに差はありませんでした。
有酸素性のパフォーマンスを上げるにはカフェイン摂取は3mgで十分という結果がこの研究から出ました。
Desbrow Bらの研究(2012)でも運動前に3mg/kgと6mg/kgのカフェイン摂取でパフォーマンスの向上が起こったようです。つまり、有酸素性の運動やスポーツをする1時間前くらいにコーヒー1~2杯を飲むことでパフォーマンスが向上するということが言えます!
5.カフェイン摂取が筋トレやスプリントに及ぼす効果
ではスプリント競技や筋トレと言った無酸素的なパフォーマンスは少量のカフェイン摂取で向上するのでしょうか?Astorino TA and Roberson DW (2010)によるシステマティックレビューにたくさんの先行研究がまとめられていたのでいくつか紹介していきます。
Beck TWら(2006)の研究では37人の筋トレ経験者に2.5mg/kgのカフェインを摂取させたところベンチプレスの1RMが向上しました。一方、Beck TWらの2008年の研究で31人のトレーニングをしていない人に同量のカフェインを摂取させたところ効果は出なかったようです。
筋トレへの効果は1RM以外にも確認されています。Hoffman JRら(2008)の研究によると110mgのカフェインを8人のトレーニング経験者に摂取させたところ、6セットの75%1RMバーベルスクワットで5セット目にレップ数が増えたと報告されています。これはコーヒー1杯でレップ数が増える可能性を示した興味深い研究です。
ただ、少量のカフェインでは筋トレに効果が無かったという研究もなされているようなので何とも言いきれません。実験の方法や被験者によっても変わってくるみたいです。トレーニング未経験者よりトレーニングを普段から積んでいる人の方が効果が出ている印象を受けるので、少し停滞してきた時には焦らずコーヒーでも飲んでから鍛えるのがいいかもです。
スプリントパフォーマンスについても一定の効果が認められています。
・Anselme F ら(1992)によると14人の男女に250mgのカフェインを摂取させたところ自転車エルゴメーターでの無酸素パワーが向上しました。
・Collomp K ら(1992)の研究では7人のトレーニングを積んだスイマーに250mgのカフェインを摂取させたところ泳速度が上昇しました。ところが非鍛錬者では上昇しませんでした。
・Bliss MV ら(2008)の研究では15人の若年男女に2mg/kgのカフェインを摂取させるとベンチプレスののレップ数は上昇しましたが、ウィンゲートテストという30秒間の全力ペダリングには影響がありませんでした。
スプリントの場合も効果が出たり出なかったりいろいろな研究がありますが、ある程度のパフォーマンス向上は期待できそうですね!
6.カフェインがその他のスポーツパフォーマンスに与える影響
少量のカフェイン摂取は有酸素性のパフォーマンスやスプリント能力以外にもスポーツ中のDecision making(意思決定・判断能力)にも好影響を及ぼすと示唆されています(Spriet LL, 2014)。
カフェインは脳に作用し覚醒レベルの維持や注意力の向上に役立つとされているので、こういった能力に好影響を及ぼすと考えられます。サッカーなど長時間運動をし続けながらも判断力の必要なスポーツ、それ以外のスポーツにおいてもスパートのかけ時やレース展開を読んだりと判断力が必要な場面は多くあります。
試合前の一杯のコーヒーがスーパープレイを生む!!….かもしれません。
まとめ
コーヒー1~2杯の少量のカフェインがパフォーマンスに及ぼす効果について紹介しました。
トレーニングや試合の1時間くらい前にコーヒーを飲むことで有酸素性パフォーマンス、スプリント能力、筋トレに好影響を与える可能性が示されています。ぜひ試してみてください。
最後に注意点を2つ
・カフェインの感受性には個人差があります。無理なさらずに。短時間の大量摂取も控えましょう。
・エナジードリンクにはカフェイン以外にも様々な物質が入っているのでドーピングに注意。
注意点については追記しました
参考文献
・Rivera WHR and Webber HN: The action of caffeine on the capacity for muscular work. J Physiol 36 (1): 33-47, 1907.
・Costill DL, Dalsky GP, and Fink WJ: Effects of caffeine ingestion on metabolism and exercise performance. Med Sci Sports 10 (3): 155-158, 1978.
・Ivy JL, Costill DL, Fink WJ, and Lower RW: Influence of caffeine and carbohydrate feedings on endurance performance. Med Sci Sports 11 (1): 6-11, 1979.
・Spriet LL: Exercise and sport performance with low doses of caffeine. Sports Med 44 (suppl 2): 175-184, 2014.
・Sawynok J: Adenosine receptor activation and nociception. Eur J Phamacol 347 (1): 1-11, 1998
・Astorino TA, Terzi MN, Roberson DW, and Burnett TR: Effects of caffeine intake on pain perception during high-intensity exercise. International Journal of Sport Nutrition and exercise metabolism 21: 27-32, 2011
・Motl RW, O’Connor PJ, and Dishman RK: Effects of caffeine on perceptions of leg muscle pain during moderate intensity cycling exercise. J Pain 4 (6): 316-321, 2003.
・Kalmar JM: The influence of caffeine on voluntary muscle activation. Med Sci Sports Exerc 37 (12): 2113-2119, 2005.
・Graham TE and Spriet L: Metabolic, catecholamine, and exercise performance responses to various doses of caffeine. J Appl Physiol 78 (3): 867-874, 1995.
・Desbrow B, Biddulph C, Devlin B, Grant GD, Anoopkumar-Dukie S, and Leveritt MD: The effects of different doses of caffeine on endurance cycling time trial performance. J Sports Sci 30 (2): 115-120, 2012.
・Astorino TA and Roberson DW: Efficacy of acute caffeine ingestion for short-term high-intensity exercise performance: a systematic review. J Strength Cond Res 24 (1): 257-265, 2010.
・Beck TW, Housh TJ, Schmidt RJ, Johnson GO, Housh DJ, Coburn JW, and Malek MH: The acute effects of a caffeine containing supplement on strength, muscular endurance, and anaerobic capabilities. J Strength Cond Res 20: 506–510, 2006
・Beck TW, Housh TJ, Malek MH, Mielke M, and Hendrix R: The acute effects of a caffeine-containing supplement on bench press strength and time to exhaustion. J Strength Cond Res 22: 1654–1658, 2008.
・Hoffman JR, Ratamess NA, Ross R, Shanklin M, Kang J, and Faigenabum AD: Effect of a pre-exercise energy supplement on the acute hormonal response to resistance exercise. J Strength Cond Res 22: 874–882, 2008.
・Anselme F, Collomp K, Mercier B, Ahmaidi S, and Prefaut C: Caffeine increases maximal anaerobic power and blood lactate concentration. Eur J Appl Physiol 65: 188–191, 1992.
・Collomp K, Ahmaidi S, Chatard JC, Audran M, and Prefaut C: Benefits of caffeine ingestion on sprint performance in trained and untrained swimmers. Eur J Appl Physiol 64: 377–380, 1992.
・Bliss MV, Bellar D, Kamimori GH, Glickman EL, Barkley JE, Ryan EJ, and Bellar A: The effect of caffeine supplementation on performance in the standing shot put throw. Med Sci Sports Exerc 40: S2036, 2008.