アスリートに多い腰椎分離症ですが、水泳選手も例外ではありません。腰椎分離症は成長期のジュニアスイマーに多い故障で、腰痛をごまかしながら競技に取り組む子も少なくはありません。そもそも腰痛の原因が腰椎分離症かもしれないと認識していないスイマーや指導者もいます。そこで、予防のために泳ぎのフォームや練習・トレーニングで気をつけること、発症後の対応などについて書いておきたいと思います。
前回の記事
【よくお読みください】
*私は医療関係者ではなく、トレーナー・コーチなので治療の相談、診察等の医療行為は一切できません。
*医療行為はできませんが、それと知識が無い事は別問題。知らないと危険なので、勉強も兼ねて書いています。
*腰椎分離症についての情報を記すとともに、予防のための方策について書きます。
*既に痛みのある方は医療機関への受診をお願いします。
目次
腰椎分離症とは?どうなるか?症状やスポーツ復帰は?
腰椎分離症とは簡単に言うと「背骨の疲労骨折です」。
背骨には、頚椎、胸椎、腰椎、仙椎に分類されますが、その中でも腰の部分にあたる腰椎に繰り返し負担がかかることで骨にひびが入ります。
特に腰椎の中でも傾斜がきつくて圧力がかかりやすい第5腰椎での発症が多いそうです。
スポーツの中で腰を反らせる、回旋させる、捻じるなどの動作を繰り返し行うことで腰椎に過剰な負荷がかかって疲労骨折が起こります。
疲労骨折なので、一発でボキッっと折れるというよりはダメージの蓄積で徐々に弱っていくイメージの方が分かりやすいです。
元々腰椎が弱い場合も有りますが、それを加味しても結局は個人のキャパを超えた負荷(強度×量)が腰にかかることが原因で、オーバートレーニング、オーバーワークの結果とも言えます。
また、腰に負担の大きい不適切な動作が繰り返されるフォームも腰椎への負担を加速させます。
つまり、ベストな予防法は腰椎に負担の少ないフォームで適切なトレーニング負荷を守ることです。
症状
腰椎分離症の症状としては腰痛、お尻や太ももの痛みがあるそうです。
特に腰を反らせた時に痛みが出やすいです。
前かがみになった時や、立位、座位でも痛みが出ることがあるそうです。
症状に心当たりがある場合は一度医療機関での受診をおすすめします。
スポーツ復帰までは?
一般的には保存療法が行われ、3~12ヶ月くらいは治療と休息に時間がかかるそうです。
体幹への負担が大きいスポーツほど回復には時間を要します。
症状が重くて長引く場合は手術もあるようですので、そうなる前に早めの受診をおすすめします。
一番ダメなのは「ただの腰痛だろう」と軽く見ることです。
進行したら最悪
腰椎分離症を放置して症状が進行すると「腰椎すべり症」になる危険があります。
特に椎骨の左右に亀裂の入った両側性の腰椎分離症ではそのリスクが高いと言われています。
腰椎すべり症になると、前方に腰椎が出てしまって、分離症どころの話ではなくなります。
成長期のジュニアスイマーとバタフライ専門に多いらしい
一般人の発症率は5%くらいですが、アスリートでは20~40%ほどになるそうです。
水泳選手では特にバタフライと平泳ぎの専門に多いようです。
(クロール、背泳ぎでもなります。)
そして、骨が未成熟で体が柔らかく、競技として本格的になってくる中学生頃から発症率が高くなってきます。
もちろん大人でも発症します。
もっと低年齢であっても、筋肉と骨が未発達な時期に負担のかかるフォームでたくさん泳いでいると腰椎分離症を発症します。
10代の頃から故障持ちって、なかなか大変だと思いますよ、、、。
最近はどのスポーツでも低年齢の頃から素晴らしい記録を出す選手が増えてきています。
それを見て焦る気持ちもあるかもしれませんが、無理は禁物だと思います。
腰椎分離症にならないために泳ぎのフォームで気を付けること
ここからは腰椎分離症を発症しないための泳ぎのフォーム面における注意点を書いていきます。
既に腰椎分離症を発症している人というより、これからならないための予防策です。
基本的には過度な腰の伸展(反る)、無理な捻りや回旋(ローリング)をしないようにすることです。
そして、練習でバテてきた時、疲労が溜まってきた時に適切なフォームを維持できなくなる事にも注意です。
適切なフォームで泳いでいれば腰が大きく反ることはありませんが、不適切になる原因を列挙すると以下のとおりです。
・低年齢で筋肉・骨が未発達で体幹部を真っ直ぐに保てない
・成熟していても腹部、臀部の意識(体幹の意識)が抜けていてる
・腰を反らすのが普通の(良い)フォームだと思っている
・腰が大きく反っている認識がない
・フォームは正しくても、練習で泳ぐ負荷(量×強度)に対して姿勢を真っ直ぐ保つ能力が低く、だんだん崩れてくる
・下半身や胸郭など全身の可動域と機能が不十分で腰で動作を代償している
いずれにせよ、フォームが悪いのです。
フォームが悪いのは「フォームを再現し、維持する能力が不足している」「フォームが間違っている」この2つです。
前者はお尻、お腹のトレーニングによる強化や、全身のストレッチによる可動域の改善が必要です。
後者はそれに加えてフォーム改善が必要です。
基本姿勢
水泳における基本姿勢に問題があると腰椎に負担がかかります。
お腹周り、お尻を上手く使って良い姿勢で泳いでください。
詳しくは前回の記事を参考にしてください。
https://yu3trn.com/swimmer-hip/
てか、先に読んで下さい。
特にお尻の意識は抜けがちですが、そうするとお腹の筋肉だけで姿勢を維持することになります。
本来はお尻とお腹の筋肉両方を使って骨盤の傾きの調整と腰の姿勢維持をします。
また、お尻の意識が無いとキック時の股関節の伸展動作を腰が代償してしまって、負担がかかります。
腰を反らせることで、見かけ上脚は後ろに振り上げることができます。
でも、それだと痛めます。
柔軟性に関しても、股関節や胸郭が硬いと腰が動きを代償します。
腰が反っている状態の多くはこういった代償動作です。
本来あまり動かず安定しているべきところが、動くべきところ(腕脚)の動きを肩代わりしてしまうので、そりゃ負担も大きいわけだ。
バタフライ・平泳ぎ
バタフライや平泳ぎでは息継ぎ時やキック時に腰が大きく反りやすく、負担がかかります。
息継ぎやキック時(特にアップキック)に腰が反ってくるのに対して、お尻とお腹を意識的に締めることで骨盤の角度を中間位にし、腰を大きく反らさずに真っ直ぐに保つことができます。
この意識が抜けているとき、もしくは疲れて抜けてきた時に腰に負担がかかります。
クロール
クロールでも、ここまで書いてきたのと同様に腰の大きな反りが腰椎分離症の原因になります。
特に高い位置でキックを打とうとすることで骨盤が前傾しすぎると負担がかかります。
骨盤を過度に前傾させたり、腰を大きく反らせてキックの位置を高くするのは股関節伸展の代償動作です。
お尻を締め、あくまでも下半身の筋肉を使って「股関節伸展」でキックの位置を高くします。
この動作はお尻がちゃんと使えないとできませんし、股関節に正常な可動域が無い場合もできません。
キック時の注意はバタフライとほとんど同じです。
お尻とお腹を使って、負担の無い骨盤と腰椎の角度を保ちます。
また、ローリングの角度が自分にとって無理のある角度の場合も捻り、回旋の負担で腰椎分離症になる事があります。
大きな角度でローリングしたいのであれば、それ相応の柔軟性を獲得する努力もしてください。
背泳ぎ
背泳ぎは他の泳法とは向きが反対で、仰向けで泳ぎます。
仰向けで何も意識せずにいると、下半身から沈み始め、体が少し弓なりになっていきます。
この時も骨盤が前傾して腰が反っています。
その姿勢のまま泳ぐと腰椎に負担をかけたまま泳ぐことになります。
クロールやバタフライでは「意図的に腰を反らせている」「反ってしまう」の2パターンですが、背泳ぎでは「放っておくと腰が反る」という場合がほとんどかなと思います。
背泳ぎの場合も同様に、お腹、お尻を締めておく必要があります。
お腹側から骨盤を引き上げておく、お尻を締めて骨盤を引き下げておく。
この2つのバランスを取って丁度良い姿勢をキープします。
丁度良い姿勢については先ほど紹介した記事をお読みください。
身近な練習に腰椎分離症の危険が
よくやりますよね、ビート板での顔上げキック。
この練習って脚力強化以外にほとんど意味がない上に腰椎分離症のリスクを高めます。
ビート板の浮力で頭側が高く浮かぶ+顔上げている+キックで脚が高い位置に行きやすい
→腰の部分が一番沈んで、反りやすい。
特に低年齢の場合は体に対して浮力が大きすぎることがあるので、反り方も大きくなります。
どうしてもキックをビート板で練習したい場合は、以下のような対策をします。
・顔を水につけて手先にビート板
・小さめのビート板など浮力を年齢や体格によって調整し、顔を水につけて行う
プルブイを股に挟んだプル練習でも、下半身の浮力が大きくなりすぎて腰が大きく反ることがあります。
年齢に合わせた浮力のプルブイを選び、ブイをしっかりお尻で締めながら泳いでください。
顔上げビート版キックは本当に意味がありません。
脚力、キック力強化はグライドキックでも可能ですし、スイム姿勢に近い方がどちらかを考えても答えは明白です。
スイムで取らない姿勢で泳ぐ意味とは。。。。。
腰椎分離症にならない、させないために練習やトレーニングで気を付けること
腰椎分離症を予防するためにはこの3点だと思います。
・腰椎に負担の少ない動作で泳げるように、フォームを見直す、習う。
・トレーニングや練習の負荷(量×強度)を見直す
・腰椎に負担の少ないフォームを再現し、維持するためのトレーニングをする
負荷というのは量と強度の掛け算です。
そして、それに耐えれるキャパは人それぞれです。
練習で泳いだ距離(量)と、ダッシュの本数・ペース(強度)のどちらか片方だけでなく、両方から体にかかる負担を考えてください。
たとえ1kmしかその日泳がなくても、全部ダッシュなら体にはしっかり負荷がかかっています。
例)50m×20 all out
ダラダラゆっくり泳いでいても、量が圧倒的なら体には負荷がしっかりかかります。
例)ゆっくりだが1万m泳いだ
量も強度も高い練習では最も体への負荷が大きくなります。
練習やトレーニングの負荷がなぜ腰椎分離症予防に重要かと言うと、オーバートレーニングによる疲労骨折だからです。
1人1人に合った負荷のコントロールミスです。
練習がきつくてフォームを全く維持しきれない(腰が反りっぱなし等)となれば、練習中はずっと腰椎に負担をかけることになります。
腰に負担のかかるフォームで泳いだ分だけ故障に繋がると思って下さい。
体に負荷をかけないと強くなりませんが、かけすぎはいけません。
休息日をしっかり挟みながら、現在の力量を見極めて負荷を考える必要があります。
スポーツで完全に故障を防ぐことはできないかもしれませんが、できないからと何もしない、なったら仕方ないってのは違うと思います。
終わりに
僕自身は腰椎分離症になりませんでしたが、同級生や後輩に中学生くらいからずっと腰痛に悩まされている子が何人もいました。
本人も周囲の大人もただの腰痛だろうと素人判断をしたまま、痛みに耐えて練習を続けていました。
それが本当に腰椎分離症だったかは今では分かりませんが、年々腰痛が酷くなっていく様は今思うと完全にただの腰痛では無かったはずです。
しっかりと検査をしに病院へ行った子は「腰椎分離症」との診断を受けて治療していましたので、痛みに耐えていた子たちも病院へ行っていれば、適切な処置を受けれたかもしれませんね。
ちなみに痛みを我慢していた子の一例を挙げると
・バタフライ専門で、キックやプルは強いが姿勢を保つ能力が低かった子
・泳ぎのフォームがイマイチ(今思うと負担大きい動きだなと)だった子
いずれにしても、負担の大きいフォームで泳いだダメージの蓄積です。
少しでもそういった選手が減っていけばなと思います。
前回も紹介したお尻の意識が分かりやすいオススメ書籍
以上です。