水泳だけに関わらずスポーツや芸術では子どもの頃からしっかりとした技術指導を受けることは非常に大切なことです。今回はなぜ大切かということについて、ご説明していこうと思います。また、どんな指導(取り組みかた、接し方)が良いかも書いていきます。
ポイントは
発育発達を考慮することと、その時に適したメニューの提供をすることです。
目次
発育発達段階に合わせた内容のトレーニング
子どもの発育発達を考える時、スキャモンの発育曲線という有名な図があります。
でもここでその図を出してしまうと、個人差に目を向けにくくなるのであえて掲載はしません。
必要な方はググってください。
スキャモンの発育曲線の概要を述べると、体の器官によって発育のピークが違うというものです。
スキャモンの発育曲線では4つの型に分類されます。
・神経型(神経や脳:誕生から6歳頃までに劇的に伸び、成長期で大人と大差なくなる)
・一般型(筋肉や骨、身長体重、心肺機能など:成長期以降から伸び幅が劇的になり20歳頃で成熟)
・リンパ型(免疫に関係:誕生から成長期まで急激に伸び、そこから落ち着いていく)
・生殖型(生殖機能に関係:成長期から急激に発育し始める)
*注意:個人差が大きいです
スポーツで特に重要になるのが神経型と一般型です。
よく言われるのがこの発育段階に合わせた内容のトレーニングを中心にするべきだということです。
なので成長期までは技術的な練習・コーディネーションの練習をする、成長期くらいに心肺系、それ以降に筋トレという感じです。
発育はだんだんと大きくなっていく意味ですが、発達には機能的に高度になっていくという意味もあります。
なので一概にこのスキャモンの”発育”曲線だけを根拠に、「この時期はこのトレーニングが良い」とは言い切れません。
スポーツのスキルは器官の大きさ(発育)にも機能(発達)にも左右されるからです。
しかしながら、様々な分野で小さい時からの技術指導が身を結んでいることを考えると、間違っていないように思えます。
おそらく神経が盛んに形成される時期にスキルを磨くことで効率よく技術習得がされるのではないかと考えられます。
また、神経型は最も早く大人と同水準になるわけですから、早い時期から同じレベルの動きが可能ということが言えます。
子どものころから高いレベルでの技術練習をすることで、単純に技術練習の時間が伸びます。
逆に、子どもだからまだいいやと思って技術面にしっかり目を向けないまま時間を過ごすと、質の低い動きを何度も繰り返し体に覚えさせることになります。
そうなるとなかなかフォームが修正できなくなります。
後述しますが、子どもの時にスキルを身に付けた方が得な理由は他にもあります。
しかしその前に、個人差についての注意点だけ述べておこうと思います。
個人差がすごいからこそ気を付けるべきこと
子どもの発育発達には個人差がとても大きいです。
「生まれてから何年だからこうだ」「何歳だからこうだ」という判断は危険です。
基本的には身長が劇的に伸び始めた頃をその子の成長期として判断すべきです。
成長期が到来する時期以外でも、大人になって完全に成熟するまでは同学年間での身長体重、精神面、機能面の差は大きいです。
もし同じレベルの技術をもっていても、スポーツの世界では身長が高い方が有利になる場合が大きいです。
そうなると、スポーツのスキル差ではなく発育の差で負ける子が出てきます。
同学年間で4月生まれと3月生まれでは1年も差があります。
子どもの頃に1年差があれば、あらゆる面でハンデが出やすくなります。
(4月生まれ同士でも個人差がある)
幸い水泳の試合は学年ではなく年齢区分ですから、とても理に適っています。
それでも拾いきれない選手はたくさんいると思います。
もしそういった子たちに技術的な指導も質が低いとどうなるか。
考えると悲惨ですよね。
ただでさえ体格的に不利なのにますます離されてしまいます。
発育発達の差で勝てないという事態に対して、大人はメンタル面でのサポートが重要になります。
「下手だから勝てない」「センスがない」「あいつには一生勝てない」そう思わせないようケアが必要です。
ポイントは自己肯定感を高めることです。
・技術的には何も負けていないことを伝える
・自分の中で上達したことやベストタイムが出たことにも目を向けさせる
・どうしようもないこと(身長体重)で嘆くのではなく、技を人一倍磨くことに注力させる
(特に子どものころにスキルをしっかり磨けば成長期以降は有利になる)
逆の場合も有ります。
一般型の成長が早いがゆえに周りの子よりも現状では体格に恵まれている子たちです。
少々技術的に粗削りなところがあっても、体格のおかげで有利になることができます。
この場合、レベルの高い試合に出やすくなったり、代表チームに入りやすくなって環境に恵まれやすくなります。
しかし、結果だけに目を向けて技術的な練習を怠ると後で困ります。
それは身長が止まってくると同時にタイムが停滞し始めること、周囲の子に追い付き追い抜かれてしまい立ち直れなくなる可能性があることです。
負担のかかるフォームを長年放置しておくといつか故障することも付け加えておきます。
個人差があるからこそ一人一人に合ったアプローチが必要です。
それでも共通することは技術を磨かねばならないということです。
子どもは大人とは使う脳領域が違う:口頭指示よりお手本を
小さな子どもと大人とではスポーツ技術を習得する際にメインで使う脳領域が違うと言われています。
大人は前頭前皮質など理性的な働きをする領域をメインに使い、理詰めで考えて習得します。
子どもは運動野などを中心に感覚的な領域をメインに使って習得しようとします。
実際にレッスンをしていても感じます。
お子様への説明は簡単な言葉や感覚的な言葉で見本を多めに見せると伝わりやすいです。
むしろ見本だけ提示したり、練習の度に前を泳いであげるだけでも上達していく子もいます。
それを見ておられる保護者様には原理や仕組みを事細かに説明した方が納得していただきやすい感じがしています。
大人の方に泳ぎを伝える時には、詳しくしっかり言葉で伝えた方が伝わりやすく、見本だけで伝わることはあまり無い印象です。
細かく説明することが高いレベルの技術指導ではありません。
要求するレベルが高いだけであって、伝え方は子どもの特徴に合った方法です。
初心者の子どもに対しても、細部までこだわって高いレベルを要求した指導にあたっています。
特に姿勢づくりやスカーリング技術に関しては、こだわっています。
このブログでも度々紹介しているお尻(骨盤のコントロール)の意識や首、お腹の使い方などは意外と見過ごされがちですので。
子どもの頃に習得した方がここぞの場面で強い
子どもの頃のほうが大人よりも感覚的に技術を習得していくと述べました。
それはつまり、体に自動化させやすいということも言えます。
*自動化=考えなくてもできること 歩行などが分かりやすい例
*詳しくは→https://yu3trn.com/swim-joutatu/
動きのクセや可動域の制限も大人より少なく、脳もまっさらだから覚えが早いというのもありますが。
競技なので泳ぎ方は年々変化していきます。
しかし本質的な部分は変化していませんし、現状良いとされている技術を踏襲して次のトレンドがあると思います。
そのため、できるだけ小さい頃に質の高い技術を自動化させた方が有利になります。
また、試合で発揮されるパフォーマンスというのは自動化された動作です。
ここぞという時に出る動きは理性的なものではなく、自動化された本能的なものである方が動作に滞りがなくハイレベルになります。
小さい時からそのキャパを増やしておくというのは本番で大きな力を発揮するにも有利になります。
どうしても大人になってから理性的に覚えた動作を完全に自動化するには子どもより時間がかかります。
だからと言って早期専門化はしなくても良い
質の高い技術指導が必要だからと言って競技や専門種目を必ずしも早期専門化する必要はありません。
大切なことは1つ1つのスポーツや種目において高いレベルの技術指導に触れることです。
早期専門化については以前まとめたのでそちらをご覧ください。
→https://yu3trn.com/early-specialization/
偉そうなことを書きましたので高いレベルの技術指導ができるよう今後も自己研鑽に励みます。