競泳の個別指導を長年していると、「思春期早発症」という悩みを抱えたジュニアスイマーたちと出会ってきました。水泳でベストタイムが伸び悩む原因の1つにもなりやすい「思春期早発症」。指導者や保護者、大人が早く気づいてあげることで、競技生活における様々な困難に対処しやすくなります。今回は少しでも役に立てたらと思い、実際に思春期早発症の子達を指導してきた水泳指導者としての経験とすべき対応をシェアします。
【尾崎コーチ】
・水泳個別指導FORMS責任者
・個別指導は2014年〜(今年10年目)
・全国20を超える都道府県からもっと速くなりたい選手、復活したい選手が集まる
目次

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思春期早発症とは

日本内分泌学会さんの記事を引用します。
”通常の時期よりも早くに(通常2~3年以上早くに)思春期がはじまってしまう病気です。”
”日本人の平均と比較して、典型的には2-3年以上早い思春期徴候(男児なら精巣発育、陰毛発生、腋毛、ひげや声変わり、女児なら乳房発育、陰毛発生、月経)が2つ以上存在する、あるいは早期の思春期徴候が1つの場合でも、年齢不相応な身長の著しい伸び、あるいは骨成熟の明らかな進みなどがあることで診断します”
”思春期早発症では以下の3つの問題が生じることがあります。(1)早期に大人の体になってしまうために、一時的には身長が伸びたとしてもそれ以上に成長することができず、大人になった時には低身長となってしまいます。(2)相対的に若い年齢で思春期の体の変化がおきるため、本人の戸惑い、周囲からの嫌がらせなどの心理社会的問題が起きることがあります。(3)稀にですが、思春期早発症を来す原因(器質的疾患と呼びます)があると、思春期早発症以外の問題を起こすこともあります。”
引用元:http://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=86

ちなみに発生する割合は、同学年で2〜3%程度とのことです。
女の子の方が男の子よりも3〜5倍近く発生しやすいということも言われています。
(参考:https://medicalnote.jp/contents/170809-001-GG)
実際に見てきた生徒さんだと、男女比は同じくらいです。
思春期早発症のスイマーはすごい記録を出すから見落とされがち
さっきの引用のところでも紹介したように、
早期に大人の体になってしまうけど、
一時的には身長が伸びたとしてもそれ以上に成長することができず、大人になった時には低身長となってしまいます。
これが本当に厄介。
というのも水泳はなんだかんだ体格がものを言うスポーツ。
そしてまだまだ全体的に周りの子達も技術が未熟な小学生の時期。
体が出来上がるのが早い思春期早発症の子達は、その体格の良さを活かして素晴らしいタイムや順位を出すことがあります。実際に見てきた子たちも全国大会での上位経験や、クラブ内での歴代記録更新など素晴らしいタイムを出しています。
だからこそ、周囲の大人に知識がないと見落とされがち!
元々、ただ体が大きいだけなのか早すぎる思春期で大きくなったり筋肉がつきやすくなったりしているのか。
「すごい子だなあ」だけだと後から大変な場合があります。
成長のピークが早いが故に最終的に低身長で中高生になると記録が停滞したり、周囲に追いつかれてしまうプレッシャーに耐えられなくなることもしばしば。
輝かしい成績を上げたことがあるがゆえの苦しみが後からあります。

そりゃそうだよね。
【実例】保護者も初めて知って慌てるケースが多い

思春期特有の変化が小学校4年とか5年みたいに、明らかに早い段階で来たことで不審に思ったと振り返ってくださる保護者の皆さん。
こんな疾患があったとは知らず、衝撃を受けてすぐに病院に行ったと皆さん語ってくださいます。
確かに自分はこの仕事をしていて関わっているから知ってるけど、そうじゃなかったら普通は知らないですよね。
思春期早発症かもと思ったら病院へ
思春期早発症の治療はお薬で思春期の進行をゆっくりすることで行うようです。
”結果的に、身長が低めのうちに大人の体になることを防ぎます。身長が伸びることのできる期間を長くすることで大人になったときの身長が著しく低くならないようにします。さらに思春期の進行に伴う本人や家族の心理社会的問題を防ぎます。
いつまで治療を継続するかは主治医の先生とよく相談してください。”
引用元:http://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=86
実際に治療をしている子たちは毎月1回通院しているとおっしゃっています。
思春期が実際に始まる年齢になってくると頻度が下がったり経過観察になったとおっしゃっていますが、個人差などもあるだろうし、主治医としっかり相談してくださいね。
治療で筋肉がつきにくくなる期間がある
治療を受けている子達から聞くのが、ホルモンの関係で治療期間は筋肉がつきにくくなるとお医者さんに言われたということです。
これはスポーツにとってはなかなかのデメリットになりますが、最終的な身長をできるだけ伸ばしておくことの方が大切です。
記録も出にくくて、少しつらい期間になるかもしれませんが中高生になったら絶対にまたタイムを出せるから腐らず辛抱してほしい。
同年代よりも大きな体格だけに頼らず、泳ぎを磨いていこう
思春期早発症のジュニアスイマーに伸び悩みを解消する個別指導コーチとして伝えれることは
「誰よりも泳ぎと向き合って、強くなろう」
ということです。
思春期が早くやってきて、体ができあがるから多少ぐちゃぐちゃな泳ぎでも周りの子に勝てたりします。
極端な言い方ですが、そりゃ小学生の試合に1人だけ中学生or高校生が混じっているようなものだから。
でも、この体格に関してはいつかみんな追いついてくるし、なんなら抜かされる可能性もある。
今は成長が早送りされているから勝ててるけど、、、、。
でもこの時期に泳ぎにしっかり向き合っていれば、みんなと体格が並んだ時にもきっと勝負ができる!
今は体格が良くて勝ててるという側面が大きいのに、
「勝ててるしまあいいか」「自分は天才だー」なんて鼻を伸ばしていると、すごい勢いで折られる。
最悪、水泳が嫌になる。
そうはなってほしくない。
しかも、治療をスタートするとその期間は筋肉がつきにくくなります。
体格だけには頼れないんです。
泳ぎそのものが上手くなるように向き合うべき時が来たと思ってポジティブに取り組んで欲しい!
筋肉はつきにくいけど、トレーニングで体は強くなるし、トレーニングをする習慣を今からつけておくことは治療が終わったら絶対に生きてくるからやっとこう!
心からそう願います。
実際、思春期早発症で治療中だけど、じわじわとタイムを伸ばしてくれている子たちもいます。
毎度の試合を見ていると、しっかりと泳ぎの課題と向き合い技術的に解決していってくれてるからかなと思います。
泳ぎに向きあうのは早発でも損はなし
最終的な身長に関しては平均より高くなったという子もいるようで、こればかりはわからないみたいです。
思春期が早発してしまうことは、様々な問題を起こしてしまうかもしれません。
でも泳ぎとしっかり向き合い、技術、フィジカル、選手としての取り組みを変えていくことは早発でも問題がないどころか、明らかに有利です。
僕たち指導者が力になれるのはそれを後押しすること。
個別指導という形だからこそそれもしやすいのかな?
そうでありたい。
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