今回は水泳が速くなる、上手になるためには筋トレが必要なのかということについて綴っていこうと思います。結論から言うと筋トレをすることは水泳にとって効果的ですが、場合によります(あくまで個人の見解です)。
水泳に限らずスポーツのパフォーマンスに関与する要素というのはたくさんあります。筋力や持久力といった体力面、動きの正確さやフォームといった技術面、粘り強さや集中力といった気持ちの面などあらゆる要素を高めていくことでパフォーマンスが上がっていきます。
そしてこの要素の中でも筋トレで培うことができるのは筋力や筋パワー、筋持久力といった要素です。精神面や体の使い方なども鍛えることができますがメインは筋力などの要素ですし、これを読んでくれている人もおそらく「筋トレでパワーをつけてタイムアップだ!」と考えていらっしゃると思うので筋力、筋パワー、筋持久力ということで話を進めます。
*体力=持久力ではなく、あらゆる身体能力を指します。筋力や柔軟性など様々な要素を含みます。
基本の思考:困ったら筋トレをするは違う
スポーツのパフォーマンスを高めるには理想の自分と比べて今の自分に足りないところを強化するというのが基本になります。つまり筋力が足りないせいでパフォーマンスが低いのであれば筋トレなどでそれを埋める、フォームが悪いのが原因であればフォームを改善するための練習やトレーニングをするということ。筋力ですべて解決するのであればボディービルダーとリフターが地球上のあらゆるスポーツでトップに立っているはずですが、もちろんそんなことないですよね。
水泳でも同じです。まず現状ベストタイムが更新できない理由や上達しない理由を考えます。そしてこれからベストを出すために必要な要素をピックアップした時に筋トレの優先順位が高くなれば取り入れるべきですし、もっと優先してやるべきことがあるならばまずそっちをするべきです。したがって、足りないピースが筋力やパワーだという人にとっては筋トレは大きな効果をもたらしてくれるかもしれません。
筋力や柔軟性といった体力面は充実しているけれどフォームに問題がある人は、さらに強度の高い筋トレに多くの時間を割くのではなく水中でのフォーム練習、陸での動きの確認や体の使い方を中心にした方が良いでしょう。一方、技術的には高いものを持っているのにストロークやキックの力強さがないとか後半もの凄くバテるという人は筋トレや持久性トレーニングを取り入れてみるのも効果的かもしれません。ただ、バテる原因が効率の悪いフォームなら問題は技術面です。その辺の見極めが難しいですね。
足りないピースを考えるのが難しい。それは体力を向上させることが技術面向上に対して必要になる場合があるからです。身に付けたい技術、つまりはフォームを実現するにはそれを実現可能にしうる体力が必要になる場合があります。例えば肩関節や股関節の柔軟性という体力面に問題があって理想とするストロークやキックができない、理想にする姿勢を維持するための筋力が無いなどなど。そういっ場合は「やりたい動きがあるから、そのために筋力や柔軟性を高めよう」という思考が大切。
筋トレの場合だと
理想のフォーム習得には筋力・パワーを高める必要があるのか。
そしてそれは今の筋力・パワーで実現可能なフォームなのか
もっと別の理由で筋力・パワーが必要なのか
筋力・パワーは充実しているので技術面など他の面を磨くべきか
筋力・パワーを高めるだけでベストが出る、上達する状況なのか
こういったことを考えたうえで筋力やパワーの優先順位が高い場合には筋トレが水泳にとって効果的なものになります。
理想とするフォームのために筋力が必要だ、だから筋トレしよう。
体の使い方、力の出し方、伝え方がわからないから理想のフォームで動けない、だから筋トレしよう
あとはパワーを付けるだけで高確率でベストが出るだろう、だから筋トレしよう
こういった思考が一番いいのかなと思います。
水泳はなんと言っても技術が大切なスポーツ
腕立て伏せやスクワットなど自重での基本的な種目ですら1回もできない人は筋トレをする必要性が高いかもしれません。もしかするとそれが原因で自分が理想にするフォームで体を動かせていないかもしれないからです。一方でスクワット180kg、ベンチプレスでは120kgも上がるのにタイムが遅い人(クロールで50m30秒切れないなど)はさらに重量を上げることに固執するよりも技術面や他の体力要素を磨いた方が良いはず。
ちなみに水の中という抵抗の大きい特殊環境で行うスポーツである水泳は技術面のパフォーマンスへの貢献度は非常に大きいと言われています。だからこそ明らかに体の小さい中学生がオリンピックに出たりするスポーツです。水泳選手をテレビなどで見た時、ついつい大きな体やムキムキの筋肉に目が行きます。あれくらい大きくならないと速く泳げないんだろうかと。ですが、果たして多くの人が彼らほど高い技術を持っているでしょうか?もちろんフィジカルも大切ですが技術面が凄いということを忘れてはいけません。水泳は技術が先なのですから。
つまり、今のレベルを上げるためにはまずフォームや体を動かす感覚を磨くことが先に考えられますが、そこに対してもっと体力が必要な場合には体力面のトレーニングが必要でしょう。もしくは、理想とする技術を再現するために必要な体力をつけるべくトレーニングをするという思考が大切だと思います。「あとは体力面を高めるだけでベストが出そう」という場合にも筋トレなどの体力面のトレーニングは効果的です。
まとめるとこんな感じになります。(あくまで個人の見解です)
筋肉をつける、筋力を向上させる時の注意点
筋肉をつけること、筋力を向上させることはほとんどのスポーツにとって有利なことは間違いありません。戦術レベル、技術レベルが同等の人が競争すれば最後はフィジカルが強い方が勝ちます。フィジカルはパワーであったり持久力のことです。
このロジックは地球が始まって以来決まっています。
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ところが筋力や筋肉量を増やす際に注意しておきたいポイントが2つあります。
筋肉の無免許運転に注意
人間の体は変化に富んでいます。成長とともに背が伸びて筋肉もついて大人の体になっていきます。加齢では筋肉や関節、骨が弱っていきます。トレーニングでも筋肉や骨、心肺機能など目的に応じていろいろなところに変化が出ます。
しかし、体が急速に変化すると、体を操作する感覚が体の変化のスピードについていけないことがあります。急速な変化と言うのは成長期が分かりやすい例です。一気に身長・体重が大きくなります。すると、今までと同じ感覚で体を動かすと、すごく重く感じたり、思うように動けないことがしばしばあります。特に女性では10代でピークを迎えてしまう選手がいますが、これは思春期に起こる体の劇的な変化に体の操作感覚がついていけないのが大きな原因の1つと考えられます。
もちろん、変化した体に慣れるべく体の操作に重点を置いて練習やトレーニングを積んでいけば時間と共に適応することができます。この現象は大小こそあれ、筋トレをして筋肉や筋力をつける場合にも起こります。体が変化しているので前と同じ感覚で泳いでも、今の体とその感覚はマッチしていません。体が柔らかくなった場合にもこれは言えます。硬かったころの感覚と今の感覚は違います。
体は言わば車と同じです。車のグレードを上げても操作する運転手が無免許だと交通事故を起こします。体の運転手の役割をしているのは脳・神経であり感覚です。つまり、筋肉が大きくなるのと並行して感覚を擦り合わせることをしないと、筋肉の無免許運転になってしまいます。
具体的には
①筋トレばかりにならず、泳ぐ時間もしっかり確保する
②前と同じ感覚で泳げると思わない
③思い通りの力加減、スピード、位置、タイミング、形、軌道などで全身を動かせるか常に気に掛ける
(③は陸で手足を上げたり回したりするだけでもいいですし、泳ぐ前のダイナミックストレッチや体操でも感じてみてください)
要するに泳ぐ方もおろそかにならないで頑張ろうってことです。筋トレをして生理学的な機能を向上させることはとても良いことです。ですが、それと同時に感覚や操作性といった機能も同時に向上させていって下さい。
陸でのトレーニングには筋トレも良い選択肢ですが、体のコントロールを磨くトレーニングもおすすめです。
技術練習に影響が出ない範囲で
水泳は筋力も大切ですがなんと言っても技術のスポーツです。筋トレをすると筋肉痛になったり疲労が蓄積したりすることがあると思います。体の痛みや疲労は体の操作に影響を及ぼします。痛みや疲労は動きに制限を加え、本来の技術で動けない、思い通りに動かせない原因になり得ます。酷い筋肉痛だと日常生活動作でも痛いですよね。そんな状態で高いレベルの技術練習ができるはずがありません。
筋トレによる疲労が水中での技術練習に支障が出てはいけません。水中での技術練習が最も重要です。水中練習に影響が出るほど追い込んでしまわないことに注意してください。もし追い込んでしまったなら、疲労が抜けるまで休んだ方がいいです。無理に泳いで下手な動作を体にインプットしない方が得策です。
いいじゃないですか、ビルダーになるわけじゃないんだから…そこそこの重さ上がれば…って思います。
まとめ
考え出すと難しいですね。でもとりあえず筋トレをするのではなく、ちゃんとした目的や根拠を持ってみてください。根拠が見つからなかったり優先順位が低ければ他にすべきことに取り組んでみてください。
とりあえず「筋トレをすれば必ず水泳が速くなる」とか「もっと筋肉をつければ速くなる!」、「(分析や考察をせずに)足りないのは筋肉だ!」というような脳筋的考えはやめた方が良いと思います。