僕が所属しているNSCA協会(トレーナー資格のやつ)が発刊しているジャーナルに面白い研究報告が掲載されていました。「低強度高回数の筋力トレーニングの効果について:オールアウトまでのトレーニングは必要か?」というもの。一般の方であれば、無理にオールアウトしなくても良いかもしれないようです。
今回はこの研究報告を読んで得たこと、自分なりに考えたことなんかを綴っていけたらなと思います。
【あらすじ】とりあえずどんな研究か
被験者数は比較的少なめでしたし、トレーニングはレクリエーションレベルで行っている若い男性でした。
年齢や性別、トレーニングレベルに代わってくるので、全ての人に当てはまるわけではないかもしれません。
また、食事内容を管理していないことや測定の限界もあります。
こういったことを踏まえて、分かったことを書いていきます。
研究では3種類のトレーニング方法が比較されました。
種目はベンチプレス。
トレーニングは8週間で週2回です。
①低強度でオールアウト(もう動けない)まで行う群
②低強度で速度的疲労(速度が維持できなくなるまで)まで行う群
③高強度で行う群
①と②は低強度高回数ですね。
ただし、オールアウトまで行くのと行かないのとで分かれます。
強度は40%1RMです。
→1回最大挙上重量の40%。100kgが最大なら40kg。
③は80%1RMで8回なので典型的ながっつり筋トレ
どの群も3セットで、セット間休憩は2分30秒です。
結果と自分なりに思うところ
トレーニングを継続した結果どうなったか。
項目ごとに分けて書いていきます。
①筋肥大
トレーニング種目はベンチプレスでしたので、大胸筋と上腕三頭筋が主なターゲットの筋肉となります。
いずれの群においても筋肥大は起こり、程度の差はありませんでした。
これに関しては別の研究でも、低負荷でも量が担保されていれば筋肥大は起こると言われています。
また、低負荷でオールアウトまで行うトレーニングが筋肥大には重要であるとも言われています。
ですが、3つのトレーニング方法に群間の差が無いということは、どの方法を採用しても同じだけ筋肥大が起こるということ。
そうであれば、オールアウトまでせずに、速度的疲労まで行う方法をとった方が、疲労を蓄積させずに筋肥大を狙えるのではないかとも考えられます。
また、この研究ではバーベルを使用していますが、もしそれを使えない環境であっても、自重でオールアウトor速度的疲労まで行いうことで筋肥大は引き起こせるのではないかとも思いました。
筋肥大には強度もですが、レップ数(量)が重要な因子であると言われているので、これは良い方法かもしれません。
特にお家で自重トレーニングをされている方や、オンライントレーニングのクライアント様に対して効果的かと思いました。
また、自分のパーソナルトレーニングはTRXと自重がメインで構成されているので、速度に着目した負荷のかけ方を意識することで、より効果を得やすくなるなと思いました!
②筋力
筋力の向上は、いずれの群でも起こりました。
ですが、効果に差が出ました。
やはり高強度の群で最も筋力向上効果が大きく(1RM向上幅+15kg)、次いで速度的な疲労群(1RM向上幅+11kg)、最後にオールアウト群(1RM向上幅+6kg)でした。
やはり、高強度トレーニングの群で最も効果が高い。
1RMを向上させるのだから、当然と言えば当然の適応ですね。
筋力で見ると、オールアウトまで行う群よりも速度的疲労までの群の方が効果が大きい。
であれば、低強度でトレーニングを行う場合には、オールアウトまで行うことよりも、速度を意識する方が良いかも。
無駄に疲れなくて済むし。
先ほどの筋肥大は量に依存する部分が大きく、筋力は強度に依存する部分が大きいのかもしれませんね。
③筋パワー
筋パワーはいずれの群においても向上が見られました。
しかし、向上の程度には差がありませんでした。
パワーを向上させるためのトレーニングを行っていないので何とも言えない部分もありますが、低負荷でもパワーは向上するようです。
筋力には差があるのにパワーに差が無いのは面白いですね。
ですが、傾向としては高強度群で最も効果が高かったため、セオリー通りいくのがいいのかなと思います。
おそらく被験者数が増えたら差が出てくるように思います。
バーベルが無いなど、限られた環境でパワーを向上させる必要がある場合にも、工夫して高強度の種目を取り入れる必要がありそう。
④筋持久力
筋持久力はいずれの群でも向上しました。
特にオールアウトまで行った群で最も効果が高く、それと同程度に速度的疲労の群でも効果がありました。
それらと比較すると、高強度の群では筋持久力向上効果は小さかったようです。
低強度高回数は昔から筋持久力を高める方法として一般的です。
ですが、これもオールアウト群と速度的疲労群で似たような状態であれば、オールアウトまで行く必要は無いのかもしれません。
速度を意識したレップを繰り返し、速度が落ちてきたところで終了する方が疲労の蓄積も抑えられて良いかも。
目的や状況によって使い分ける
被験者が若い男性で、トレーニングもレクリエーションレベルだとのこと。
測定できていない項目や、被験者数の少なさも有る。
トレーニング経験者やアスリートにまでの今回の理論が当てはまるかは不明です。
ですが、参考にはなりますね。
トレーニングで何をメインの目的にしているかによって、使い分けが大切だなと思いました。
◇筋肉をつけたいならレップ数(量)をしっかりやりこむ。
◇筋力やパワーをつけたいなら強度(重さ)をある程度重視する。
◇無理にオールアウトまで行かず、速度が落ちてきたところをセットの終わりと判断することで疲労の蓄積を抑えることができる。
おそらく今回の内容は一般の方のボディメイクや健康作りにはかなり有用だと思います。
特に、疲労を抑えて効果を出すために速度を意識するのはすぐにでも取り入れてみたい。
面白い研究なので、今後アスリートやトレーニング熟練者でも詳細に測定して欲しいなぁ!
参考文献:研究助成報告書 低強度高回数の筋力トレーニングの効果について:オールアウトまでのトレーニングは必要か?NSCAジャパン機関誌 volume27, number6, p20-28, 2020